2012年9月19日水曜日

チョコレート嚢腫へのダナゾール使用で妊娠された例

チョコレート嚢腫がある方は、体外受精をおこなう対象となるのですが、卵子の質は一般的には不良となります。その場合にはダナゾール(ボンゾール)を使用することも選択肢の一つです。ダナゾールのチョコレート嚢腫への治療と、ステロイド作用が影響している可能性があります。
今月、5cmのチョコレート嚢腫があった方に対して、ボンゾールを使用し、チョコレート嚢腫を吸引して、その後、体外受精・胚移植をおこない、3回目の体外受精で妊娠されて卒業された方がいらっしゃいます。
一般的には、卵巣機能が良い方が対象になるのですが、この方のAMH は0.83でした。
大きなチョコレート嚢腫は、採卵の邪魔になったり、採卵後の感染症、排卵誘発への反応不良、などをおこし、手術が必要になりますが、卵巣の手術により卵巣機能は低下します。
卵巣機能の低下を避けるために、今回のように、ボンゾール・吸引、これに連続して体外受精をおこなう方法も選択肢となり得るのです。

2012年9月9日日曜日

45歳、AMH<0.1での妊娠/卒業(非常に幸運な例なのです)

今年、45歳、AMH<0.1、初回の体外受精で妊娠/卒業された方がいらっしゃいます。先日のお話では、順調に経過しているとのことで、無事に出産されることをただただ祈るのみです。
無事出産されれば、この方は、当クリニックでもトップ3の妊娠/出産例になります。
ただ、この方の妊娠は非常に幸運であったと考えられます。
実際には、40歳以上での妊娠はかなり低くなり、43歳以上での妊娠・出産は1~2%程度でしょう。
体外受精も万能ではありません。年齢は越えられない壁なのです。
当クリニックでも37歳以上方には、体外受精も選択肢に入れる旨をお話ししています。
当クリニックでは、体外受精のみをお勧めする方針ではありませんが、比較的高齢の方は、「何をするにも、急ぎましょう」の考え方をお勧めしています。

AMH<0.1 FSH;11.7の方の妊娠例

先日、アンチミューラリアンホルモンの事に関して、テレビで放映されたようで、木曜日、金曜日に、不妊症でもない方からの検査の電話の問い合わせがいくつも来ました。
当クリニックでは、不妊症の方が対象なので、妊娠を考えていない方の検査はお受けできないことと致しました。皆さんもご了解をお願い致します。
AMHは0.1未満は感度以下ですが、今までも妊娠例をご紹介して参りました。
今回の方は、AMH<0.1 FSH;11.7の方で、クロミフェンの反応も不良であり、プレマリンを使用した自然周期で、1個採卵・胚移植し、先日、妊娠/卒業されました。
困難ではありますが、AMHが感度以下でも、卵胞ができた場合には挑戦していきましょう。

着床障害の主原因は胚の状態です(体外受精11回目での出産報告)

今年の前半に、体外受精11回目で妊娠されて出産された30歳中程の方から、出産報告のはがきを頂きました。無事に妊娠/出産されて胸をなで下ろしています。
この方は、内膜掻爬を2回、また弓状子宮もあり、子宮内膜がいつも薄い方でした。卵子の質もあまり良くなく、精子所見より顕微授精も必要な状況で、また子宮外妊娠も乗り越えての妊娠/出産でした。採卵直前の子宮内膜が7mmで妊娠されています。
経過より、当初は私も内膜が問題と考えていたのですが、実際には胚の状態が問題であった考えられた方です。
着床障害(つまり妊娠しないこと)を子宮や子宮内膜、免疫的な問題であると考える方が少なくないようですが、実際には、胚の状態が最も着床に関係するのです。
子宮内膜の厚さも妊娠/着床に関係しますが、胚の状態が第一に重要であることは変わりはありません。その次に内膜の改善策が位置づけられるのです。
今後も、胚の状態をどのように改善するかを皆さんと考えていきたいと思います。



体外受精4回後の、初回でのHMG-AIHによる妊娠例

今年の前期の妊娠例です。
他施設で5回体外受精を受けて妊娠されない20代後半の方が、当クリニックでHMG-AIHの1回目で妊娠卒業(通院2ヶ月)されました。排卵障害があり、クロミフェン3~4回、HMG注射6回程度での排卵誘発を受けていました。AIHは受けていなかったようです。
今回、ホルモンの状態を見て、HMG注射の種類を考えてAIHをしてみました。
体外受精が最終手段とは考えずに、一般不妊治療での可能性も追求する必要性を感じた例でした。
皆さんも、体外受精のみではなく、妊娠の可能性を少しでも広くする事もお勧め致します。

診療に生き方が表れる? プロフェッショナル-仕事の流儀-(高倉 健スペシャルより)

昨日、NHKのプロフェッショナル(仕事の流儀)高倉 健スペシャルを見ました。日本の映画界を代表する役者にも、役者のあり方に対する悩みがあったことに、驚きと納得を感じました。
また、「演技にはその人の生き方が表れる」との言葉には重みを感じます。
見逃した方は是非再放送の視聴をお勧め致します。
私の診療にも生き方が表れるのでしょうか。葛藤・もがきの毎日ですが、良い意味で生き方が表れる診療をおこないたいものです。

2012年9月2日日曜日

妊婦血液の出生前診断

妊婦血液の出生前診断(新型)
本日、妊婦血液で、ダウン症などの染色体異常(数的異常)を99%の確率で診断できる検査方法が、臨床応用されるにあたっての報道がありました。
対象は、妊娠10週以降の方であり、おもに妊娠7週で転院する当クリニックでは直接関わる可能性は低いですが、様々な注意点があると思うので、コメント致します。

まず最初に注意して頂きたいのは、まだ情報が明確でない部分もあり、すぐに一般の施設でおこなわれる検査ではありません。31日に研究会も発足?したばかりであり、検査の正確性や問題点などの検討はこれからなのです。現時点では臨床研究のみが容認された状況です。
日本産科婦人科学会は、声明で、「安易な実施は慎むべきだ」として、無制限に広がらないよう求める声明を発表した。診断内容や結果を妊婦に正しく理解してもらうため、専門家による診断前後のカウンセリングが不可欠と指摘。医療従事者と妊婦双方に「疾患を多様性として理解し、尊重する姿勢」が必要とした。出生前診断に関する見解を改定し、こうした新たな診断方法について、十分なカウンセリングの実施を求める、などとした。」との立場です。

概略は、インターネットでの記事を転記致します。一部補足
米国の会社が開発した新型妊婦血液の出生前診断 妊婦の血液に含まれる胎児のDNAを調べ、ダウン症の原因となる染色体異常(21番染色体)の有無を99%の確率で診断する。他に2種類の染色体異常(13番、18番染色体)も分かる。妊娠10週から実施可能で、臨床研究施設での費用は21万円の予定。
 従来の血液検査は精度が低く、確定には流産の危険を伴う羊水検査などを行う必要があった。
流産の危険があった従来の検査に比べ、安全に調べることができる一方、異常が見つかれば安易な人工妊娠中絶にもつながることから、カウンセリング体制の整備などが課題になりそうだ。
現時点では臨床研究として行う。

コメントです。
妊娠すると、ごくわずかに胎児の血液が母体血中にも紛れ込みます。この紛れ込んだ胎児血を選び出して、染色体の量を測定することで、染色体の数的異常(ダウン症では21番染色体が通常は2本が3本になっている)を調べる方法です。この研究自体は20年ほど前からなされていましたが、胎児血をどのように選び出すかが課題でした。
これらの「診断」としては、羊水検査や絨毛検査で染色体分析がなされていますが、羊水を採取するのには針による穿刺をして羊水を採取するのでおよそ0.5%程度の流産の可能性がありました。
今回の検査は、母体の採血でおこなえるので、流産の危険性は基本的にはありません。
なお、某女性有名人が受けたクアトロ検査、トリプル検査などの採血による検査は、危険率を計算する「確率計算」であり、「診断」ではありません。
おそらく、この検査をするには、遺伝の専門家によるカウンセリングが必要となる可能性が考えられます。または、実際におこなわれるには検査の指針ができあがってからになるでしょう。厚生労働省も、早期にガイドラインの作成を求めているようです。
したがって、逆にすぐに一般で受けることは困難でしょうし、今はもう少し経過を見る必要があります。