2015年1月28日水曜日

生殖医療ジャーナルクラブ2015報告(その4)

生殖ジャーナルクラブ報告 その4 最終号です。

1)最近、AMH<0.1の方が非常に多くなっているのですが、皆さん、「低反応の卵巣]をどのようにお考えですか。 ヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)では、卵巣の低反応の定義があります。

 低卵巣反応のBologna criteria(ボローニャ定義) 2011年

下記の3項目のうち、2項目以上の場合には低反応卵巣とした。

1)40歳以上か、その他のリスクを持つ

2)(採卵が)低反応でキャンセルとなったか、採卵数が3個以下であった

3)月経期の胞状卵胞が5~7個未満、またはAMHが0.5~1.1未満のもの

                (当クリニックでは胞状卵胞5個未満、AMH1.0未満を目安と考えています)

                                                     Hum Reprod 2014;29:1842-1845

 

2) サプリメントとして、ビタミンCをとると、BMIが25未満の女性において、妊娠までの期間が短縮した。  (当クリニックでは、ビタミンDとビタミンCを積極的に検査していますが、ビタミンCも低い方は積極的にとっていきましょう) 

BMIが25以上の女性では、βカロテンを摂取することで妊娠までの期間が短縮した。

 

3)  子宮内膜症の取り扱いガイドライン(ESHRE)

ESHREの内膜症のガイドラインの抜粋です。          Hum Repro 2014;29:400-412

・軽度の内膜症があるカップルには、HMG-AIH療法により、自然妊娠よりも5.6倍妊娠率が上昇する。(子宮内膜の方には、クロミッドによる妊娠率の増加はわずかであり、有効性は明確ではないようです)

・HMG-AIH療法は、AIH単独よりも妊娠率は5.1倍上昇する。 (やはり内膜症には、HMG-AIHが良いようですね)

・内膜症患者にARTをおこなう前に、3~6ヶ月GnRHアゴニスト(ナファレリール、ブセレキュア、リュープリン)を使用すると、妊娠率が上昇する。(内膜症患者さんで、なかなか妊娠しない方には、ナファレニールなどを使用しても良さそうですね)

・3cm以上のチョコレート嚢腫を、ART前に手術することで妊娠率が上昇する根拠はない。しかし、手術することで、疼痛軽減や採卵しやすくなることは認められる。

 

4)PCOSについて

 AMHで、PCOを考える目安は、4.7~7ng/ml位 (当クリニックでは5を目安としています)

 PCOSには、クロミフェンよりレトロゾールの方が、1.32(IUI併用)、1.71(IUI併用ナシ)と妊娠率向上した。生児獲得率は1.63

しかし、PCOの第一選択は、クロミフェンである。(レトロゾールは、乳癌治療薬であり、第一選択にはなりにくいですね)


さて、今年は、じっこうの年と位置づけました。まずは、しっかりと報告をやりきりましたよ~。これらの勉強の成果をしっかりと治療に応用していきたいと思います。

2015年1月21日水曜日

生殖医療ジャーナルクラブ2015報告(その3)運動しましょう!

生殖医療ジャーナルクラブ2015報告第3弾です。
1年間の不妊症に関する論文を網羅した勉強会なので、報告も1回ではできなので、複数の分割報告になってしまいますが、お付き合い願います。

1) IVFと運動
 IVFと身体活動性を検討すると、過去1年間の身体活動性が継続して高いレベルの運動をした場合には、妊娠率は1.96倍、スポーツや運動群は1.48倍、すべての運動を含めると1.52倍となった。

やはり体を動かして、血流を良くすることは、妊娠に繋がるのですね。
皆さん、どんどん運動をしましょう。なかなか運動の時間を毎日とるのは難しいと思いますが、毎日の家事でも、ちょこちょこ動き回り、小走りすることをお勧めしています。


2)胚移植後の安静の程度は、妊娠率に影響はなかった。

今では、一致した意見です。胚移植後は当クリニックでは5~10分ですが、すぐに動いても問題ないのですね。皆さん、胚移植後の安静時間は、あまりこだわらないで良いですよ。


3)子宮腺筋症の影響について、
しばしば質問があります。実際には、個々人で、子宮腺筋症の大きさ、位置にもよるので一概には言えないのです。しかし、ざっくり言うと 子宮腺筋症があると、妊娠率は約30%低下し、流産率は約2倍になった。

子宮腺筋症が大きいときには、手術も考える必要があります。しかし、子宮腺筋症の手術は非常難しいのです。不妊症にも詳しく、丁寧な手術をおこなってくれる医師を見つける必要がありますね。


4)卵子成熟とダブルトリガー(HCG注射と、GnRHaスプレー)
未熟卵が25%を超える患者に、ダブルトリガー法をおこなうと成熟卵子の割合は上昇した。
しかし、成績はやや不良であり、未熟卵が多い背景には、卵子の成熟機能障害が関係していると推測される。 Fer Ster 2014.102:405-409
ダブルトリガー法とは、卵子の成熟をおこすために、HCG注射や、GnRHアゴニスト(ブセレキュアなど)を使用するのですが、両方の方法をおこなうことで、より多くの卵子の成熟を期待するものです。
 

未熟卵が多いのは、その卵巣の成熟機能が、弱いのであり、ダブルトリガー法でも、完全に解決できるとは言えないようです。しかし、容易におこなえるので、どんどん試してよい方法でしょう。


5)乳癌とIVF
 乳癌患者に、体外受精をおこなう事は珍しくはない。ここでは46名の患者を対象とした。
乳癌患者にはタモキシフェンを使用していることもあるが、IVF周期に使用していても、成績が低下することはなかった。
また、ロング法やアンタゴニスト法のIVF周期により、エストラジオールが上昇したが、最大10年間の再発のリスク上昇は認めなかった。                   Fer Steril 102:488-495e3

最近にも、乳癌の患者さんが来院しました。抗癌剤の仕様前なのですが、ロング法でおこなう予定です。一時的にエストラジオールが上昇しても、再発リスクが上がらないとの報告は、自信を持って排卵できますね。

つづく

2015年1月18日日曜日

生殖医療ジャーナルクラブ2015報告(その2)理想の採卵数とは?

生殖医療ジャーナルクラブ報告第2弾です。

1)しばしば皆さんから、理想の採卵数について尋ねられますが、その論文がありました。
採卵数と生児出産率、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)との兼ね合いをみた報告です。
 一般的には採卵数が多い方が良いのですが、多すぎても出産率は頭打ちになってしまいます。

   採卵数      生児出産率    OHSS
       1~5個             17%           0.09%
   6~10個             31.7          0.37
   11~15個        39.3          0.93
   16~20個       42.7             1.67
   21~25個       43.8            3.03
   26個以上       41.8            6.34

これから、  15個ぐらいまでの採卵数が適当である としています。Fer Steri 2014;101:967-973

採卵巣5個までは、確かに出産率は低いので、5個以上を目指した方が良さそうです。
一方、16個以上は出産率は、もう上昇しませんが、OHSSはどんどん増えていきます。
したがって、5個以上15個(せいぜい20個)が理想的な採卵数と言えるでしょう。
15個以上の採卵数の場合には、多くの場合、多嚢胞性卵巣症候群(PCO)の方である可能性が高くなります。
セミナーに参加した先生方にも尋ねてみましたが、やはりPCOの方は、卵子の数は採れるのですが、卵子の質が良くないことが多く、皆さん苦労されているようでした。
当クリニックでも、特にPCOの方には、今後マイルド~中等度の誘発で、5~15個の採卵数を目指していきましょう。
                     

2) 卵管水腫硬化療法                                                                        

重症の卵管水腫があると、体外受精でも妊娠率は1/2~1/3に低下し、流産率は2倍になります。したがって、超音波検査で分かるような重症の卵管水腫がある場合には、手術をして、卵管水腫を切除したり、切断したりすることが、しばしばおこなわれます。一方、癒着がひどく手術が難しい場合や、手術をしたくない方には、採卵時などに卵管水腫を吸引する方法がおこなわれます。
これは、簡単に行えて安価であるのですが、再発が欠点でした。
今回、この卵管水腫に、単に吸引するだけでなく、アルコール固定をすると、およそ8割で再発なく、妊娠率も改善したとの報告です。

                           着床率  臨床的妊娠率  生児出産率
卵管留水腫群               8.8            16                  10 %
(処置しなかった群)

硬化療法群(処置群)      26        43        34

再発群               25        39        28

コントロール群             30        50        39
 (卵管水腫なし)  


卵管水腫硬化療法
 月経7~12日(排卵前)
 ゲンタマイシン80mg溶液で反復洗浄
 卵管水腫の1/2の内容液量の98%エタノール注入し、5~10分待つ
 2週間後に卵管水腫の大きさが10m%未満ならば、有効であったと判断。
 再発率は22%    月経2回目以降に体外受精をおこなう。
              Am J OB Gyn 2014 3:250e1-250e5

この方法は、再発しても、それなりの効果があるようで、再発群でも妊娠率は改善し、処置群に近いぐらい妊娠しています。したがって、積極的におこなって良い方法だと思います。
当クリニックでも先日、おこなってみました。方法としては、チョコレート嚢腫におこなっていたので、特に難しい問題はなく、スムーズにおこなえました。今後も必要な方には積極的におこなってみます。成績が出たならばまたご紹介致します。

2015年1月15日木曜日

人工授精の威力 3例

年末年始は体外受精もお休みになるのですが、この年末年始の間に、人工授精の威力を感じた症例が続きましので、ご紹介致します。

1)30歳台後半、AMH<0.1、FSH:25と卵巣機能は低下。
過去に6回の採卵。 初回に妊娠するも妊娠7週で流産。その後の5回の採卵、4回の胚移植では妊娠せず。毎回1~2個の採卵数。(2回は顕微授精だった)
今回7回目の採卵時に、すでに排卵してしまっていたのでAIHに変更し、このAIHで妊娠。7週まで進み心拍あり。
AIH時の原液精子は、1ml 3900万/ml 運動率13%  総運動精子数;500万

体外受精に進んでいても、またAMH<0.1でも、人工授精で妊娠する可能性はあるのです。一般不妊治療での妊娠の可能性も併せて追求して、HSGなどもおこなっておくことの大切さを再確認しました。


2)30歳代前半、AMH<0.1 FSH;29と卵巣機能は低下。
体外受精1回目は、変性卵1個のみで中止。2回目は採卵できず。3回目に1個採卵し、1個のみ胚移植できるも妊娠せず。卵巣機能が非常に低下しており、採卵さえ難しい状況での妊娠です。
今回、プレマリンを使用しつつ、月経64日目に23×19mmの卵胞が発育し、65日目にAIHをおこない、妊娠し、胎嚢を確認。
体重はマックスより3kg減量。インスリン抵抗性があり、メトグルコも使用。体重の管理も重要なのです。

月経後60日以上経ってやっとできた卵胞では、体外受精をおこなうには勇気はいりますが、諦めずにAIHをおこなうことも、決して無駄とは言えないですね。もちろんHSGはおこなっていますよ。


3)30歳代後半、AMH;13 多嚢胞性卵巣症候群。
 前医で5回の採卵、10回の胚移植するも妊娠せず。この間すべて顕微授精だったとのこと。
 当クリニックでも翌月にIVFの予定でしたが、HSG後の1回目にAIHで妊娠し、胎嚢を確認。
 この方にとっても初めてのAIHでした。
 AIH時の原液精子は、4.1ml 340万/ml 運動率41% 総運動精子数 574万と、一般的には人工授精での妊娠は難しいとされるのですが、実際には線引きは難しいのですね。無精子症でない限り、人工授精に挑戦してみては如何でしょうか。  
 夫は睾丸腫瘍で、抗癌剤の使用経験あり。

 前医の5回の顕微授精でも妊娠せず、精子の状態も良くなかったのですが、1回目のAIHで妊娠し、御本人も信じられないとの事でした。

皆さん、如何ですか。人工授精も捨てたものではありませんね。
体外受精をおこなっていても、その合間に人工授精をすることも、無駄ではないのです。
少しでも妊娠する可能性を上げるために、総合的に考えて不妊治療を考えみては如何でしょうか。

2015年1月12日月曜日

生殖医療ジャーナルクラブ2015報告(そのⅠ)(ビタミンD)

生殖医療ジャーナルクラブの勉強報告を数回に分けて紹介致します。

昨年のビタミンDの重要性に関する論文が複数ありました。

1)ビタミンD欠乏症

①胚盤胞1個移植の妊娠について、ビタミンDと妊娠率を検討した。
 ビタミンD 欠乏症(20未満)では、妊娠率はおよそ6割に低下する。 Hum Reprod 9:2032-2040

 当クリニックでは、現在初診時にビタミンDも測定していますが、やはりしっかりとビタミンDは測定して補充していきましょう。

②血中のビタミンDは、AMHと関係している。
PCOSでAMHが高すぎる場合には、ビタミンD欠乏症女性にビタミンDを補充すると、AMHは低下(正常化)する。卵胞液中のビタミンDは、IVFの成功率と関係する。

③反復流産患者では、ビタミンDの欠乏の割合が高かった。
ビタミンDの欠乏は、早産、妊娠糖尿病、低出生児体重児、子癇前症と関係する。
反復流産の47%がビタミンDが30ng/ml未満だった。
抗リン脂質抗体、抗核抗体、抗DNA抗体、甲状腺TPO抗体の陽性率は、低ビタミンD群では2~4倍になった。自己免疫や細胞免疫の異常と関係した。   Hum Repro 2014;29:208-219

ビタミンDは、妊娠してからも重要であり、免疫にも関係しているようです。流産にも関係しているようなので、習慣流産の方にも、ビタミンDの検査も考慮していきましょう。
もちろん、ビタミンDですべてが変わるものではありませんが、妊娠前だけに限らず、妊娠後も必要なビタミンと言えます。検査をして欠乏している方は、妊娠後も出産まで補充した方が良いでしょう。

2)子宮内膜スクラッチング(擦過法)
 子宮内膜スクラッチングは、10年前に紹介され、報告は300以上あるが、しっかりとした比較試験は4件のみである。まだ、確かなデータがあるとは言えないし、意見の一致もしていない。
                                                                   Hum Rep 2014 8:1618-1621

当クリニックでも、2回胚移しても妊娠しない方には、子宮内膜擦過法をご紹介しています。最近は国内でも有効であったとの報告も複数ありすが、世界的にはまだ議論がある方法です。したがって、現状ではまだ、すべての方にお勧めする方法ではないという評価です。もう少しデータの蓄積が必要です。
                                       (次回に続く)

2015年生殖医療ジャーナルクラブ(勉強会)

今年も、新年恒例の、生殖医療ジャーナルクラブの2泊3日の合宿?が栃木県那須塩原、りんどう湖のホテルで開催されました。
これは昨年1年間の主な不妊症関連の英語論文をすべて網羅して勉強するものすごい合宿なのです。朝は7時から、夜は8時まで、延々と続く勉強会です。
主催の荒木重雄先生、スーパーマンですね。3日間、論文をずっと解説して下さりました。お手本、目標となるすごい先生です。
今年も100名以上の医師、培養士などの参加者で、会場はすごい熱気がありました。



いつも休みになると熱を出しているのですが、今年はパソコンも故障して、ゆっくりできた休日だったせいか、発熱せずに、年の初めをスムーズに滑り出すことができました。
さあ、今年もがんばるぞ~~!

2015年新年のご挨拶

遅くなりましたが、皆さん明けましておめでとうございます。
年末年始にパソコンが壊れてしまい、ご挨拶が遅れてしまいました。
たまにはパソコンが壊れることもいろいろ見直すのには良い機会かもしれませんね。何も仕事ができずに、逆にいろいろ考える時間が持てました。
今年は、医師になって30周年の年でもあります。だからといって、特に何か特別なものではないとは思いますが、自分なりには、節目の年であると思っていますし、今後を考える上で、節目となり得る、節目としなければならない年であるとの思いがあります。
昨年は
         2014年の累積妊娠数 931例   全累積妊娠数 11,255例
         ART妊娠 691例(74%)   一般不妊治療 240例(26%)
         (IVF:232例  ICSI:92例   凍結胚移植:368例)      
と、今までで2番目の多さの妊娠数でした。
東日本大震災後では最も多い年でしたが、今年はこれをまた超えて行くべく、そして、昨年におこなえなかった事をしっかりと実現していける、実行の年にしたいと考えています。
今年もよろしくお願い申し上げます。               高橋敬一
                                        2015年1月