2011年12月23日金曜日

生殖医療従事者講習会(2011.12)

12月23日(日)、今年の第3回生殖医療従事者講習会がありました。今回は東京開催でしたが、沖縄をはじめ全国から専門医の先生方が200~300人参加されていました。専門医の先生方はやはり生殖医療分野でパワーも実績もあり、日本を代表する先生方の集まりでした。高橋も、生殖医療専門医の更新のためのポイント獲得にせっせと休日も研修に励みます。
本日最初の講師は、高橋が研修医時代に指導して下さった、今は埼玉の大学のI教授でした。生殖医学の総論・トピックスを講演されましたが、世界と日本の比較を語らせたらば第一人者でしょう。

1)以前は初婚年齢が10年で1才ずつ上昇していたが、この5年間で1才上昇した。2010年の初婚年齢は28.8才だった。30年前は、30才以上の出産は20%だったが、2008年は30才以上は60%を占めている。(不妊症が増えているのは、やはり結婚・出産年齢の増加も大きな影響があるのでしょう)
2)ART(体外受精・顕微授精・凍結胚移植など)は年間20万件を超えている。胚移植数は約13万件だが、半数以上が凍結胚移植となっている。(新鮮胚移植は原則1個であり、凍結胚移植数が多くなっているのです)
3)胚移植は、70%が単一胚移植です。(今は単一胚移植が標準です)
4)生産率(/総治療;治療開始数)は、35才までは約20%で、40才以上は5%程度です。(多くの場合、対胚移植での妊娠率で通常20~40%の妊娠率ですが、治療開始周期あたりにするとこの程度になるのです)
5)ART周期の1/3は40才以上でした。(アメリカなどでは、40才以上は自己卵子での治療対象になりません。日本の妊娠率が他国に比較して低いとの意見もありますが、その理由は、単一胚移植と、40才以上の自己胚移植が大きく影響していると思います。ちなみに米国では3個以上の移植が4割で、12~13%が提供卵子による治療なのだそうです)
6) 世界では、年間100万周期のARTがおこなわれていますが、日本は17%を占め、最も多い国なのです。
7)不妊期間1年間で不妊症と考えて良い。初期の検査としては、卵管造影検査と精液検査は最も重要。
8)人工授精は排卵少し前から排卵直後までにおこなう。(排卵直後ならば、AIHは排卵後でも有効であると明確に許容されています)
などの解説がありました。

また、研修会後の同僚であったT先生と話をしましたが、卵子凍結の現状について、
1)凍結卵子による妊娠出産率は、まだ1~3%程度と考えられる。
2)今後は卵巣組織の凍結が増える可能性がある。
3)主に、卵子凍結を受けているのは、虎の門病院、聖路加病院、新宿の(K)レディースクリニックなどがあるが、主に白血病、卵巣癌、乳ガンなどの患者さんが対象である。
などの情報を得てきました。

以上、皆さんにご報告いたします。

2011年12月20日火曜日

アンチエイジング、抗加齢学会講習会、減量のきっかけ

12月18日に抗加齢学会の講習会が東京で開催されました。高橋は抗加齢学会の(なんちゃって)専門医でもあるのですが、これもポイントを取らないと更新できないので参加しています。ただし、動機は純粋(または不純?)であり、自分のために勉強しているのです。
加齢の主原因は、動脈硬化であり、どのように動脈硬化を防ぐかが重要なのです。動脈硬化の原因は様々ありますが、肥満、高コレステロール、高血糖、不眠、精神的ストレス、酸化ストレス(活性酸素説)など、様々あります。
簡単なアンチエイジングは、ざっくりいえば、カロリー制限と運動です。
しかし、これがなかなか難しいものです。人間、命がかからないと減量や運動、禁煙(高橋はたばこは吸いませんが)などはなかなかできないのでしょうね。
5年前、高橋は100kgありました。関取の寺尾、舞の海(これがわかる方は高橋と同世代ですね)より重かったのです。その後最軽量時では75kgまでいきましたが、そうなるとズボンはボンタン状態(これも古いでしょうか?わかる人は同世代)ですね。
高橋がやせようと思ったのは、採血するとほとんど糖尿病状態で青くなったのと、トイレでおしりを横から拭ふこうとして、なかなか届かずに手の指がつってしまった苦い経験があるから(本当か作り話かはこの場では曖昧にします)でした。
時間がなく、会議に出席しなければなりません。
アンチエイジング医学をどう皆さんに還元するかは、またの機会にアップいたします。
急がないと会議に遅れそう。

2011年12月18日日曜日

自然周期と排卵刺激周期、卵子の質の改善法、着床について(ありすくらぶ交流会2011.12.17)

昨日の12月17日に患者さんの交流の場である「ありすくらぶ」の集会に参加いたしました。当クリニック卒業生がボランティアで運営して下さっています。K16ビルの3階で開催され今回は約15名もの多くの方が参加されました。高橋は診療が長引いてしまい、少し遅れての参加でしたが、高橋のその後の予定もあり、皆さんの質問に答える事で高橋の1時間すべて使い切った状況でした。
主に体外受精の治療内容に関してと、卵の質の向上への詳しい質問がありました。
その中で、3点考えさせられる事がありました。

1)自然周期の体外受精は「体に優しいのか?コストとしても安価なのか?」
自然周期の良い点としては、HMG注射を使用しないので体に優しく薬剤料が少なくてすむ、卵巣過剰刺激症候群の発生がない、毎月でもおこなうことが可能である、胚移植あたりの妊娠率は刺激周期と変わらずに高い、などが挙げられています。当クリニックでも、ご希望者や卵巣機能低下の方には自然周期での体外受精をおこなっており、妊娠・出産される方も少なくありません。
一方、自然周期での体外受精は、胚移植できるまでに、採卵できなかったり受精しないなどで半数がキャンセルになります。したがって半数の周期が無駄になっていることになります。多くの方が「体に優しい」という内容は、HMG注射を使用しないとの理由であるように感じますが、キャンセルが多い分、採卵する回数、(場合により毎日)採血や超音波をする回数、キャンセルになってもそれなりのコストがかかる、などの問題があります。過去に自然周期しか受けてない方の中には、決してコストも安くなく、通院回数も多く、またキャンセルが多いので、刺激周期をして欲しかった、との意見もありました。

他方、刺激周期では、HMG注射の費用(約5~10万程度)はかかりますが、キャンセル率は10%程度で、自己注射をするならば来院回数は自然周期よりむしろ少なくなります。凍結胚があれば、採卵回数も少なくてすみます。もし患者さんが40歳前後ならば、一人目を妊娠して出産後に2人目を希望しても、年齢的に2人目の妊娠は難しくなる可能性が高いが、凍結胚が残っていれば高齢でも再度の妊娠の可能性が高いと推測される。
実際には、確かに多すぎる卵子の採取は卵巣過剰刺激症候群になり危険なので、刺激周期でもできるだけ少ない注射量でマイルドにする方向に最近はなってきており、これはよいことだと思います。
ただ、自然周期が理想的かというと、必ずしも単純にそういえないと思います。
当クリニックでも、自然周期もおこないますが、排卵刺激周期もおこなっております。やはり1つの方法がすべての方に最も良い方法である、とは単純には考えられないと思います。それぞれの方にあった方法を考えていく必要があるでしょう。

2)卵子の質を良くする方法はどのような方法があるのでしょうか?
これは、患者さんのみでなくすべての医師も考えていることですが、なかなか難しい壁があります。
まず、妊娠しない原因のほとんどは胚の染色体異常であり、40才以上の方は採卵の時点で約50%、43才以上では70%程度は染色体異常の卵子とされています。
染色体異常自体は治療は不可能なので、残りの半数以下の染色体異常がない卵子の質をどれだけ上げられるかということになります。実際には、最も有効な卵子の質を上げる方法とは、「高年齢になる前に不妊治療をおこなうこと」とも言えるのです。
さらに、喫煙や肥満解消などの生活改善は有効と言えるでしょう。


それ以外には、血流の改善を目的に、運動、半身浴、サンビーマー(遠赤外線)、岩盤浴、などを推奨したり、メトホルミン(糖代謝改善薬)、DHEAやメラトニンなどのホルモン投与、インターパンチ(健康食品)、ビタミン剤などのサプリメント、などを使用しています。これらは、使えばすべて良くなると言う保証はないので、なかなか妊娠しない方や、卵子の質の不良な方、卵巣機能が低下して採卵数が少ない方などに提案しています。

3)妊娠しない原因としての着床障害を治療したい?
皆さんから、受精しているの「妊娠しない原因は着床障害ではないか?」とお尋ねされる事はよくあります。その場合の皆さんの考えていることは、子宮や内膜に問題があるのではないか、と考えられている方が多いようです。
しかし、着床(妊娠)しない原因は、ほとんどが胚の問題なのです。アメリカなどでの提供卵子での体外受精では、40才以上の方が20才代の方から卵子提供を受けて、夫の精子と受精させて体外受精をすると、妊娠率は20才代の妊娠率を得られます。「子宮年齢」はあまり関係しないのです。
現時点での、着床障害の検査方法としては、子宮内に子宮筋腫や子宮内膜ポリープなどがあるかどうかをみたり、重症の卵管水腫がないかどうかを調べるための、子宮鏡や子宮卵管造影検査をおこなうこと程度ありませんし、現時点ではそれで十分と言えます。着床に関係する論文はありますが、現時点では機能的な着床障害の特別な検査は特になく、研究レベルの話なのです。また、繰り返しになりますが、着床しない原因のほとんどが胚の問題ないのです。

今回、たくさんの方が「ありすくらぶ」の交流会に参加されて、多くの質問がありました。

高橋は時間の問題があり、質問へのお応えのみで中座しましたが、その後皆さん同士での交流があったと思います。同じ境遇でがんばっている人がいると、人間は勇気づけられ、救われ、いやされると思います。ありすくらぶを今後も多くの方にご利用いただきたいと思います。

2011年12月16日金曜日

人工授精のタイミングと排卵、および人工授精の成績と自然妊娠率

本日、人工授精の論文をよみ、また診療をしていて皆さんの人工授精に対しての2つの誤解に気付きました。
1)排卵後の人工授精は成績が悪いのか?または、人工授精は排卵前の方がよいのか?
答えは「いいえ」です。人工授精は排卵前の方が成績がよいとは決まっておりません。
本日読んだ論文にも、実際には「排卵直後」の方が排卵前よりも妊娠率が高い成績でした。この論文ではHCGを投与して36±2時間後に人工授精をおこなっており、排卵直後である明確な条件でした。1回目の人工授精で排卵前の場合には、翌日の人工授精をおこなうことで妊娠率はさらに上昇しました。当クリニックでも、ご希望の方には連日人工授精をお受けしていますが、その有効性が指示される結果でした。
排卵後は人工授精をキャンセルする方が時々いらっしゃいますが、排卵24時間以内ならば人工授精は有効なのです。当クリニックでも排卵後の人工授精で妊娠されている方は珍しくありません。実際には、いつ排卵したか、排卵直後なのか、がわかりにくいことはしばしばありますが、前日の超音波検査で卵胞があり、翌朝の人工受精時に排卵していた場合には、むしろ妊娠率は高くなることも期待できるのです。排卵後であっても、24時間以内の排卵が推測されるならば、人工授精は有効なのです。

2)人工授精の妊娠率は、自然妊娠とほぼ同じなので、人工授精は意味がないのではないか?人工授精をとばして体外受精をするべきではないか?

人工授精の妊娠率は5~10%、自然妊娠する確率はおよそ10%であり、同じと考える意見がインターネットなどで散見されるようです。しかしこれは正しいとは言えません。「自然妊娠する率は、主に不妊症でない方が自然妊娠する確率」であり、人工授精は、「主に精子が少ない方が対象であり、妊娠されてないカップルが人工授精で妊娠する確率」なのです。したがって、見た目の妊娠率が同じだから人工授精は意味がないと考えるのは正しいとは言えません。人工授精は簡単におこなえる、コストパーフォーマンスも良い有効な治療の1つなのです。

実際には、判断が難しい場合や迷う場合はしばしばありますが、当クリニックでは皆さんに理由や根拠を説明できない治療はおこなっておりません。治療に疑問がある場合には、スタッフや掲示板にご質問下さい。見た目の妊娠率に振り回されないようにご注意・ご質問下さい。

2011年12月12日月曜日

体外受精の最新全国成績(2009年)

12月9日におこなわれた生殖医療専門医講習会では、最新の2009年の全国データ集計の説明がありました。
1)体外受精の妊娠率は3%程度、顕微授精より高い。(顕微授精はあくまで受精を補助するものであり、妊娠率を上昇させるものではありません)
2)生殖補助技術(ART)での出生児数は約2万6千人であった。
3)凍結融解胚移植による出生児数は、採卵周期(体外受精・顕微授精)の胚移植での出生数の1.5倍であり、凍結胚移植による出生児数がはるかに多かった。
4)排卵刺激方法は、スプレー(ロング法、ショート法)による治療割合が31%、アンタゴニスト法は17%、クロミフェン+FSHが18%、クロミフェン単独が16%、自然周期は9%だった。
5)刺激方法別の妊娠率は、GnRHアゴニスト法(ロング法・ショート法)の移植あたり約25%、採卵あたり約20%、治療あたり約19%と最も高かった。アンタゴニスト法は、3~4%前者より低かった。
6)自然周期の妊娠率は、移植あたり約25%と高かったが、採卵あたり約10%、治療あたり約6%だった。(自然周期では、胚移植までいけば高い妊娠率を期待できるが、治療途中で60%程度がキャンセルになるので、採卵あたり10%の妊娠率が実感に近いと思います。)
7)45才以上で出産まで可能なのは、ほぼ0に近かった。妊娠率は1~2%であり、妊娠しても70%程度は流産した。(45才以上での体外受精はあまりお勧めできません)
8)凍結胚移植での出生児は、低体重、周産期死亡率、先天異常など、新鮮胚移植と比べてもむしろやや低く、特に凍結胚移植の不利益なデータはなかった。
 今後は凍結胚移植がより増加していくと考えられます。女性の年齢が37~38才を超えると急速に妊娠成績が低下するので、37才以上の方は早期の体外受精を考える方がよいかもしれません。

2011年12月9日金曜日

早朝の生殖医療専門医講習会

皆さんおはようございます。2011/12/08~09は、横浜で日本生殖医学会が開催されています。9日の本日は、早朝7時より生殖医療専門医の講習会があり、生殖医療専門医は参加が義務づけ(ポイント制)られています。
ただし、今回は横浜開催なので、高橋は日帰りの参加なのですが、朝7時開催はさすがに厳しく、千葉駅5時発の列車に乗り込むのに必死でした。これはその列車の中で書いています。最近は、学会も欧米化?されているのか、早朝の講習会が増えているのです。
生殖医療専門医の資格は5年ごとに更新する必要があり、生殖医学関連の学会参加や発表などによりポイントを獲得する必要があるのです。この資格は自動的に一生名乗れるのではなく、しっかり勉強することが義務づけられており、我々は大変なのですが、制度自体は良いことですね。
千葉県では、現在産婦人科医の生殖医療専門医は9名のみであり、がんばってポイントをゲットしてきます。外はいまだに真っ暗です。

2011年12月2日金曜日

ブログ開始のご挨拶

東日本大震災の被災者の皆様には、心よりお見舞い申し上げます。

皆さん、こんにちわ!
2011年12月1日、本日より高橋のブログを開始するにあたりまして、皆様にご挨拶を申し上げます。
年末になって1年を振り返ると、東日本大震災や原発事故に象徴されるように、今年は日本にとって本当に大きな痛手を受けた年でした。
個人的にも、辛いこと、心よりありがたいと感じたことなど、様々なことを体験した年であり、生涯でも転機となる年だと思います。震災により、高橋ウイメンズクリニックも影響を受けました。やはり、震災直後はJRの運休、計画停電、原発の放射能の影響など、患者さんのみでなく職員も不安になり、クリニックの休診、開院時間の短縮などを余儀なくされました。
必然的に、来院患者さんも激減しました。原発事故の状態が明確になるまでは妊娠を見合わせる方も少なからずいらしたようです。
このような状況の中で、今年は様々な方に支えられた1年でした。妻、先輩、友人、職員、など多くの方にアドバイスを頂き、勇気づけられたのです。
また、高橋が、患者さんにも支えられていたことを認識できた年でもありました。患者さんが徐々に震災前のように来院して下さり、出産報告などの葉書でのお気遣いなどの言葉で、疲れた心には癒しとなり、自分が医師になった初心、医師としての仕事への喜びを思い出させてくれたのです。
今回ホームページをリニューアルし、皆様にも支えられている事に気づいたこの機会に、このブログを立ち上げ、皆様への有益な情報(またはしばしばくだらないだろうつぶやき)をより積極的にお伝えしていこうと思います。
乞うご期待(しないで気軽に覗いてみて)下さい!
高橋敬一