2015年9月11日金曜日

卵管水腫硬化療法後の、凍結胚移植での心拍確認例

先日、重症の卵管水腫があった方に、卵管水腫硬化療法をおこない、その後の凍結胚盤胞移植で心拍を確認できた例がありましたので、ご紹介致します。
30歳代前半の方で、左卵管水腫、右卵管周囲癒着があり、体外受精となりました。
左卵管水腫は3cm×2cmであり、超音波検査でも確認される重症の卵管水腫でした。
採卵周期では3個の胚盤胞が得られました。
1回目は妊娠せず、2回目は妊娠するもごく早期の流産に終わりました。
御本人と相談し、卵管水腫硬化療法を行うこととなりました。
卵管水腫の内容液を吸引後、アルコールを注入し10分間維持して卵管水腫を固定しました。
その後は、卵管水腫は徐々に縮小し、最後の胚の移植時には超音波検査では確認できないまでになりました。
この凍結胚盤胞胚移植で妊娠し、先日胎児心拍が確認されたのです。

この例では、
1)超音波検査でみえる卵管水腫は重症の卵管水腫と考えられる。
2)重症の卵管水腫があると、体外受精でも妊娠率(着床率)が、1/2~1/3に低下する。
3)卵管水腫を解除するには、腹腔鏡手術での卵管切除、卵管水腫開口術、卵管切断、卵管クリッピング、などがある。
4)最近では、腹腔鏡手術の代わりに、卵管硬化療法が報告されている。ただし、根本的な治療ではなく、あくまで代替療法であり再発例もある。しかし、腹腔鏡手術が困難な例などには十分考慮に値する治療法である。
などが、言えると思います。
また、最近、漠然とした着床障害が気になる方からしばしば質問されるのですが、着床障害の検査としては、子宮鏡による子宮内膜ポリ-プや粘膜下筋腫、子宮内膜癒着などの確認や、子宮卵管造影検査や超音波での重症の卵管水腫の確認が重要なのですね。

2015年9月7日月曜日

2015年8月の妊娠数

新クリニックへの引っ越し後1ヶ月が経ちました。
徐々に落ち着きつつありますが、まだまだ細かい調整は続いています。

さて8月の妊娠数をご報告いたします。
引っ越しに伴い、体外受精も後半から本格的に開始したので、妊娠数は少ないものとなりました。
今後は徐々にペースを上げていきたいと思います。

2015年 8月の妊娠数 41例 

ART妊娠    14例    (内訳:  IVF 1例  ICSI 1例    凍結胚移植 12例) 

 AIH妊娠    9例    

その他一般不妊治療   8例  (タイミング、クロミフェンなど) 

7月までの妊娠数は593例です。

今回は、8月の体外受精の結果判定は9月に入ってからなので、体外受精、顕微授精とも1例の妊娠数でした。しかし、人工授精やその他の一般不妊治療での妊娠数は、他の月と同等以上の妊娠数でありました。




2015年9月6日日曜日

腸閉塞で、5回の開腹手術後の妊娠、出産例

腸閉塞(イレウス)で、5回の開腹手術を受けていた方が、体外受精で妊娠、出産された方がいらしたので、ご紹介致します。
30代後半の方で、過去に腸閉塞で5回の開腹手術を受けていました。
腹腔内はかなりの癒着が考えられるため、御本人と相談し、体外受精を行いました。
11個採卵し、2個胚移植し妊娠、無事、経膣分娩で出産されました。
今回のように、腹腔内に癒着がある場合には、体外受精は非常に有効なのですね。
ただし、癒着があると、採卵時に感染をおこしやすく、妊娠しても、妊娠中に腸閉塞を再発することもあり得るのです。この方は幸いにも、妊娠中に腸閉塞の再発はありませんでした。
また、もし帝王切開になると、癒着のために、腸の損傷もおこりやすく、帝王切開後の腸閉塞の再発もおこりやすいのです。
この方は非常にスムーズな経過をたどった幸運な例でした。
このような方がひとりでも多くなるように、また我々もがんばって行きたいです。

典型的な着床障害の治療例(子宮内腔癒着)

最近、着床障害について質問をされることが多いのですが、どうも子宮の問題からの免疫的な着床障害をイメージされている方が多いように感じます。
しかし、本来の「着床障害」とは、子宮内の癒着、子宮内膜ポリープ、粘膜下筋腫などの問題なのです。
今回、子宮内膜の蜘蛛の巣状の癒着があった方に、内膜癒着剥離術をおこない、無事に妊娠、卒業された方をご紹介致します。
30歳後半の方で、海外で子宮内膜の増殖症で掻爬手術を受けていました。
当クリニックで、卵管造影検査と子宮鏡をおこないました。
卵管造影検査では子宮内腔は様々な場所が癒着しており、造影剤が抜けているのが分かります。


子宮鏡では、蜘蛛の巣状で、子宮鏡が子宮内に入りませんでした。したがってその後、子宮内腔癒着剥離術を日帰りでおこないました。


上の写真は、手術後の子宮鏡写真であり、子宮内腔がはっきりとみえ、卵管角も確認できます。
その後、体外受精を行い、7個採卵、ご希望により2個胚移植し、妊娠、卒業されました。

本来の着床障害とは、このように、子宮鏡や卵管造影検査で確認するものなのです。
着床障害が気になる場合には、今回のように子宮鏡や卵管造影検査で子宮内を確認することが大切なのです。

2015年9月2日水曜日

不妊症の定義の変更(学会告知)

本日(9月2日)
日本産科婦人科学会からメールが届きました。
不妊症の定義が変更されたとのことです。新聞やネットでは、このことがすでに報じられていましたが、学会からは本日送られてきました。

前文として、

海外の諸機関(WHO, ICMART, ASRM, ESHRE)がinfertilityの定義を1年の不妊期間によるとしていることから、本会用語集にある不妊(症)の定義の不妊期間について、従来の定義の「2年というのが一般的」を「1年というのが一般的」と変更するのが適当であるとの結論に達しました。わが国において、女性の晩婚化やキャリア形成指向、その他の理由により女性の妊娠する年齢が上昇する中、不妊(症)の定義の変更により、女性がより早期に適切な不妊治療を受けることにつながると期待されます。

そして、新しい定義は以下の如くです。

「不妊(症) infertility, (sterility)
生殖年齢の男女が妊娠を希望し,ある一定期間,避妊することなく通常の性交を継続的に行っているにもかかわらず、妊娠の成立をみない場合を不妊という.その一定期間については1年というのが一般的である.なお,妊娠のために医学的介入が必要な場合は期間を問わない.」

下線は学会が引いており、強調しています。
性交渉をしっかりおこなっていることが前提であるのです。性交渉は多ければ多いほど妊娠しやすいのですが、最近はセックスレスも少なくないので、この点が強調されているのでしょう。
不妊期間は1年になりました。
しかし、1年経たなくても、必要に応じて不妊治療をおこなって良いと明確に示したのです。

以前は、「2年経っていないから不妊症ではないので、不妊症の検査や治療は必要ない」と言われた方もいらっしゃいましたが、今後はこのようなことはなくなります。
治療が必要な方には早期に治療を受けて頂くことが大切ですね。