2012年4月26日木曜日

体外受精と免疫とイントラリピッド(世界仰天ニュース)

昨日、世界仰天ニュースで、免疫が強すぎて妊娠できない方に、イントラリピッドという高エネルギー輸液をおこなった後に体外受精をして妊娠できた例の紹介がありました。
このような情報は、私も初めてだったので、気になり、少し検索してみました。
夜なので、あまり詳しくは検索しませんでしたが、イントラリピッドと体外受精の報告に関しては、PubMed検索システムでは見当たりませんでした。
テレビも途中からでしたので、経緯がわかりませんが、この情報には慎重な確認が必要だと現在考えています。
まず、「免疫が強すぎて妊娠できない」中身が明確ではありません。何を指標に免疫が強いというのか、が不明瞭です。NK細胞も習慣流産に使用する場合もありますが、NK細胞の測定は、かなりばらつきがあり、習慣流産でもその意義は確立されていません。
体外受精では免疫が強すぎて妊娠できない症例については、聞いたことがないのです。
また、1週間前にイントラリピッドをおこなうことで、簡単に免疫を変えられるというのもまだ聞いたことがありません。
この件は、私も気になりますので、再度十分に情報を集めて皆さんにお知らせ致します。
新しい方法は、いつも最初は過大評価される傾向があります。これについてもすべて解決されるのではなく、効果があるとしても、「この治療法がある一部の方には効果がある」程度である可能性が高いと思います。あまり期待しすぎずに、少し詳しい情報を集めてから考えてみましょう。

2012年4月16日月曜日

日本の生殖医療問題の先駆者(発信者)

本日、朝日新聞社の「アエラ」の現代の肖像欄で、長野のSマタニティークリニック院長のN先生がレポートされていました。N先生には一度お目にかかる機会がありましたが、アエラでは、代理出産、減胎手術など、産婦人科学会と対立しても、目の前にいる患者さんのために、「もがき、苦しみながらも=文中引用」信念を貫いて医療を続けた姿が報告されています。
体外受精も含めて生殖医学に対しては様々な考えがあり、なかなか公表しにくい問題を含みます。S医科大学のI教授(私が研修医の時に指導頂いた方です)が、N先生を「発信する人」と表現していますが、患者さんのために困難な道が予想されるのに問題提起を発信した姿勢には頭が下がります。
70才になられるN先生は、患者さん家族とご一緒の写真では笑顔満面でとてもお若い印象です。非常に高く遠い目標ですが、これも私の目標としたい姿ではあります。
様々な問題がこのレポートにはあげられていますので、皆さんにも是非読んで頂くことをお勧め致します。

2012年4月15日日曜日

AMHが0.1未満でも妊娠された例

アンチミューラリアンホルモン(AMH)は、残存卵子数を示し、卵子の質を示しているのではない、ことは以前にもアップしたと思います。
今回、AMH<0.1、FSH>35であり、卵巣機能がかなり低下して、残存卵子がほとんどない状態でも妊娠された方をご紹介致します。
約40才の方で、AIHを3回受けていました。更にこの方は子宮内膜増殖症で3回の内膜掻爬術を受けていました。しかし、幸いなことに、この方の子宮内膜は薄くはありませんでした。
AMH<0.1であり、体外受精を開始した昨年8月からは、排卵誘発剤を使用してもほとんど卵胞発育もなかったのです。クロミフェン誘発では2回とも採卵できず、3回目の自然周期では1個採卵できるも受精せず。
4回目の自然周期の採卵で1個採取でき、受精/胚移植して妊娠されました。
これほど卵巣機能が低い方には、排卵誘発剤は無効であり、プレマリンなどを使用して自然に卵胞発育を待つ方が良いかもしれません。
今回は、AMH<0.1でも妊娠する可能性を皆さんにお示ししました。ただし、この方は非常にラッキーだったと考えられ、実際にはAMH<0.1での妊娠はかなり難しいのです。皆さんもAMHが低下している方は治療をお急ぎ下さい。

2012年4月13日金曜日

凍結胚の移送による胚移植の時代

他院で体外受精をして1児出産後、千葉県に引っ越してきた方が、当クリニックでの凍結胚移植で妊娠されて、先日卒業されました。  何を皆さんに伝えたいかと言いますと、この方の凍結胚は、神奈川にあるクリニックで凍結保存されていたものでした。ご本人は、凍結胚を移送して当クリニックで保管し、こちらでの胚移植を希望されたのです。

移送の方法は、輸送用の液体窒素タンクに凍結胚をいれて送るのです。
これは、当クリニックでは初めてのことではなく、当クリニックから広島や九州のクリニックに送ったこともあり、そちらでも妊娠しています。技術的には飛行機での輸送も可能で、そのうちに外国との凍結胚の移送もありうるでしょうし、すでに経験のある施設もあるかもしれません。

今や凍結胚は容易に輸送可能であり、もちろん精子も容易に送れます。
ご存知の方も多いと思いますが、日本の胚凍結技術(特にVtrification:ガラス化凍結法)は世界で最も進んでいるのです。未受精の卵子凍結は、まだ臨床的には良い成績ではありませんが、胚凍結は確立された技術と言って良いでしょう。
実際には、これらの胚の移送には、両クリニックの技術が共に信頼おけることが前提であり、現在では、主に知り合いの医師同士での個人的な信頼関係でおこなわれている程度でしょう。

昨日、できるだけ若いときの胚を凍結保存するメリットをお伝えしましたが、転勤が多い方でもこの方法を利用すれば、そのご心配は多少は軽減されるのではないでしょうか。

2012年4月12日木曜日

体外受精における多数採卵のメリットの1例

最近、体外受精において、HMG誘発で多数の卵子を採取するメリットを感じた例がありましたので、皆さんにも参考になると思い、ご紹介致します。
患者さんは40才を超える方です。ご主人の体外受精へのご了承が得られず、ご本人の希望もありAIHを20回以上おこなっていました。今回、やっとご了解が得られ、初めての体外受精をおこなえたのです。幸いに多くの卵子が得られ、最終的に5個の凍結胚も得られました。
この方は、1回目の凍結胚移植で妊娠し卒業されましたが、無事元気なお子さんが誕生されることを心よりお祈り致します。
ところで、この方にはまだあと4個の胚が凍結保存されています。この方は、お子さんが誕生された後にも、二人目を妊娠/出産する可能性が十分残っていると思います。
これが、もし少数の卵子採取で、凍結胚が残っていない場合にはどうなるでしょうか?この方が無事、妊娠、出産したとしても、出産まで1年、授乳していれば、二人目の不妊治療はおよそ2年後になります。この場合、年齢的には二人目の妊娠はかなり困難な状況になってしまうでしょう。
特に、卵巣機能が低下気味であり、年齢が比較的高い方は、できるだけ若いときの卵子を採取して、できるだけ若いときの凍結胚を保存するほうが、二人目のお子さんを得られる可能性はぐっと高くなります。高齢になればなるほど、妊娠率は低下し、流産率は上昇し、染色体異常の率も上昇するのです。
以前は、「体外受精で一人授かれば十分」と考えられてきたのかもしれませんが、二人目、三人目を考えるとき、1人1人採卵・妊娠・出産するよりも、できるだけ若いときの胚を保存する方がメリットがずっと多いのではないか、とこの方の経過を振り返って見て考えました。
多数の採卵がすべてに於いて良いとは考えませんが、少数の卵子採卵がすべてにおいて良いとも限らないでしょう。皆さんの選択肢を広げる参考になれば幸いです。
皆さんご自身は如何お考えでしょうか。

2012年4月11日水曜日

卵子の取材と高橋の万端?な準備

先日、某国営放送のディレクターが取材に当クリニックに来院しました。内容は、「クローズアップ来年?」での不妊症での卵子について、もう少し深く切り込んで続編を作りたいとのことでした。
「取材」の連絡を頂いたときに、全国の視聴者の皆様にくたびれた恥ずかしい姿は見せられないと考えた私は、前日には整髪店に行き、髪から眉毛・鼻毛の手入れにはじまり、雑然とした診察室の机周りの物品の待避(整頓とはとても言えない状態)、何がおきても大丈夫なように下着も新調(何を想定しているのか全く意味不明)し、準備万端で撮影隊を待ったのでした。妻も夫の髪が乱れてもすぐに直せるように、櫛・ジェル、あぶらとり紙、などを携えて、控え室に陣取っておりました。クリニックのスタッフも撮影に備えて残ってくれています。準備はOKです。
さて、某国営放送のディレクターが着いたとの受付からの知らせに、落ち着いてゆっくりと診察室を出てスタッフを出迎えました。胸の中ではあたかもドラマのように大きく手を広げながらの歓迎のポーズで、、、

待合室に行くと、1人の男性が椅子に座っていました。彼こそ天下の某国営放送のディレクターなのです。撮影スタッフはまだ着いていないようで、器材を搬入している最中なのでしょう。私は名刺交換をして、まずはディレクターを診察室に招き入れました。挨拶をして、どのような「取材」かをあらためて伺い、どこからインタビューと撮影を始めれば良いか、頭の中で計算しながら、話の内容を組み立て始めました。撮影は斜め横からが良いだろう、カメラ目線は不自然になってしまうから、カメラは見ないようにしなければ、などと考えながら、、、、、
ディレクターの話はノートを広げてメモをしながらどんどん進む。ビジュアル系はどうなっているのだ!肝心なところが終わってしまうではないか! どうもおかしい!!いっこうに撮影スタッフが入ってくる様子がない。
ディレクターの話が進むにつれて、ハイテンションだった気持ちの高揚が、徐々にではなく、一気に冷めていく自分に気づきながら、話は進んでいくのでした。

その通りです。ディレクターは「取材」の申し入れであり、「撮影」の申し入れではなかったのです。
これに気づいたのは、私だけではありません。スタッフからもこの状況を見て、気怠く「もう帰っていいですか」と言われ、「後ろからの妻からの何とも言えない視線」を感じながら、取材は終了したのでした。
その夜の脱力感は、いかばかりのものか。風呂からもすぐには出られない。その為か?インフルエンザも下火になっているのに、本日は微熱と倦怠感を感じながら、「またやっちまった~」と自己嫌悪の53才なのです。

なお、このストーリーは、事実を元にしたフィクションであり、登場人物は現実とは全く関係ありません。(つまりどうゆうこと?)

2012年4月7日土曜日

昨年の妊娠数

遅くなりましたが、2011年の妊娠数をご報告致します。昨年の妊娠数は768名でした。月およそ50~80名の妊娠数です。
昨年は、やはり東日本大震災と原発事故が大きく影響し、4月の34名、5月の53名が最も少ない月でした。しかしその後は回復し、最多月は7月の81名でした。その後は月60~80名の安定した妊娠数で、スタッフもよく頑張ってくれたと思います。
思い起こせば、震災直後は日を追う毎にその被害の大きさが報道され、また先の見えない原発事故があり、日本はどうなってしまうのか、皆さんも不安な日々であったと思います。
1年経った現在も、決して震災や原発事故の復興が済んでいるとは言えず、むしろ遅々として進まない事態が続いています。
しかし、出産した皆さんからの報告を目にすると、むしろ私が元気づけられました。後ろ向きではなく、今後はできるだけ前向きに進んでいきたいと思います。
今年は、新しいことに挑戦して、何とか妊娠率をあげて、皆さんと喜びを共有したいと思います。
今回は色文字に挑戦しました。そのうち、写真なども挿入したいと思います。

2012年4月4日水曜日

40kg以上の減量で妊娠した例

今夜は台風のような強風が吹いています。皆さん、ご無事でお過ごしでしょうか。
さて、
先日、7回目の採卵(すべて顕微授精)で、ようやく妊娠された方がいらっしゃいました。
アラ4の方ですが、
1回目はHMG注射で排卵誘発するも1個採卵するも、未熟卵のため顕微授精もできず。
2回目はHMG注射で2個採卵するも、正常受精なし。
3回目は5個採卵できるも受精せず。
4回目、5回目は採卵できず。
6回目に8個採卵でき2個移植し妊娠するも7週で流産。
7回目に1個採卵で、顕微授精で受精・胚移植し妊娠し胎児心拍も認めました。
この方は、当初はBMIが30を超える高度肥満で、当初は卵子の状態も不良でしたが、非常に前向きの姿勢の方であり、40kgを超える減量をおこない、それに伴い、卵子の反応と状態が改善したと考えられた方です。
一般的に、体重の増加に伴い、妊娠率は低下し流産率は上昇します。やはり、体重管理の重要性をうかがわせる例でした。
体重も妊娠には重要な因子だと考えられています。この方のようにしっかりとした減量ができれば問題ないのですが、なかなかここまでの減量は難しいでしょう。そのような場合には、糖代謝改善薬のメトホルミンなども積極的に使用しては如何でしょうか。
また、当初は全く受精しなかったり、採卵すらできない経過でしたが、諦めずに努力・減量することで妊娠まで到達した例は、皆さんへの励みにもなると思います。皆さんも参考になさってみて下さい。
今後も、この方のような例をご紹介して参ります。

2012年4月2日月曜日

新年度のご挨拶

新年度が始まりました。
東日本大震災から1年が経ちましたが、昨年度1年間は日本全体は震災後からの復興を期する年だったと思います。私も大きな影響を受けましたが、同時にたくさんの経験をし、学ぶことが多かった年でした。
この3月で、千葉市医師会の医療担当理事を退任致しました。この間は、千葉市医師会員が行政・救急隊・多くの病院とも協力して、千葉市の救急医療を支えていることを実感した2年でした。医師の多くは、千葉市の救急医療を支えるためにがんばっているのです。確かに問題ある場合も認めますが、基本的には信頼できる医師が多いことを皆さんにもご理解頂ければと思います。
さて、私自身は、医師会の理事を退任したので、今後はまた高橋ウイメンズクリニックで、不妊治療に集中して力を注いでいこうと思います。
今後は毎月の妊娠数や様々な経験した例を皆さんに提示して、一緒に考えていきたいと思います。
今後もブログを時々見て下さい。あらためまして、不妊治療をより進めていきたいと思います。一緒にがんばっていきましょう。