2015年4月27日月曜日

着床前診断で赤ちゃんを得られる可能性は上がるのか?(生殖医学会抄録から)

現在、横浜で国際不妊症学会(IFFS)と、日本生殖医学会の学会がおこなわれています。
日本生殖医学会のシンポジウムで、名古屋市大の杉浦教授の「着床前診断は生児獲得率改善に有効か?」との題名での抄録がありました。
簡単に言えば、「着床前診断(PGD)をすれば、赤ちゃんを得られる可能性が上がるか?」という事です。

結論から言えば、「着床前診断によって出産率が上昇することは期待できない」という結論です。それどころか「高齢不妊女性に対する着床前診断の多数の論文の検討では、むしろ出産率を低下させた」のです。

これは、当クリニックでも、着床前診断の質問のある方に説明していることと全く一致しているので、今回、もう少し詳しく考え方を説明致しましょう。

まず、具体的な数字では、染色体均衡型転座による習慣流産では、PGDを行うと27~54%の出産率と報告されています。一方、均衡転座があっても、自然妊娠による出産率は37~66%(むしろこの方が高いですね)、累積出産率は68~86%であった。したがって、PGDによって出産率が上昇することは期待できない。との事でした。

習慣流産の方が、着床前診断を受けるのを希望されるのは、赤ちゃん(胚)の染色体異常による流産を防ぐ目的です。
今回の例は、両親のどちらかが染色体の一部分が入れ替わっている、均衡型転座を持っているカップルに対する着床前診断の意義について述べています。
染色体の転座があるので、通常よりも、赤ちゃん(胚)の染色体の異常は多くなります。
したがって、その染色体異常のある胚を除けば、流産率は低下します。しかし、最終的に赤ちゃんを得られる率は上昇しないのです。

これはどうしてでしょうか。

実は、着床前診断では、胚盤胞になった細胞を数個はぎ取ってきます。
従って、はぎ取られた胚は、その過程で通常よりも長く外に出されており、また細胞をはぎ取られるわけですからそれだけストレスを受けます。ストレスを受けているわけですから、染色体が正常であっても、検査を受けた胚は、何もされていない胚よりも妊娠率は低下するのです。
一方、染色体が異常な胚は移植されませんから、胚移植あたりの見た目の妊娠率の上昇は期待できるかもしれませんし、(妊娠したら)染色体異常による流産は低下します。
ただし、繰り返しますが、1個1個の正常胚の妊娠率はストレスにより低下するので、そのカップルが最終的に赤ちゃんを得られる確率はむしろ低下するのです。

これらは、染色体異常が起こりやすい均衡型転座のカップルの場合ですが、通常の方が着床前診断で得られる意義はもっと少なくなるでしょう。

着床前診断は、流産率の低下はある程度期待できますが、出産率はむしろ低下する可能性があるものなのです。

 現在の着床前診断は、やはり、致死性の疾患の遺伝があるか、両親のどちらかに染色体に問題があり流産を繰り返す、場合に受ける意義がある、と考えるのが適当でしょう。
また、着床前診断には、そのカップル毎に、日本産科婦人科学会に申請をして、承認が下りた場合にのみ受けられます。現状では、簡単に受けられる状況ではないのです。












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