2015年5月31日日曜日

顕微授精と体外受精の妊娠率(ヨーロッパ2010年ART統計より)

前のブログと同じく、高度生殖医療技術研究所からの月刊誌からの情報です。

ヨーロッパ31国の2010年のART報告です。
ART全体で550,296周期、IVFは125,994周期、ICSIは272,771周期でした。凍結融解胚移植は114,593周期です。ICSIとIVFはでは、68%(2/3)がICSIなのですね。ICSIがIVFの2倍なのです。
最も多い国は、フランスの79,427周期、ドイツの62,571周期でした。

一方、2010年の日本のART全体は、158,391周期であり、ヨーロッパのどの国よりも多いのです。この時点での日本のICSIは、IVFの1.2倍程度なので、ヨーロッパよりは少ない頻度だと思います。

ヨーロッパの

IVF採卵周期あたりの妊娠率は29.2%、移植あたりの妊娠率は33.2%

ICSIの採卵周期あたりの妊娠率は28.8%、移植あたりの妊娠率は32.0%

凍結融解胚あたりの妊娠率は20.3%でした。


日本の報告では、

IVF採卵周期あたりの妊娠率は10.4%、移植あたりの妊娠率は23.7%

ICSI採卵周期あたりの妊娠率は8.1%、移植あたりの妊娠率は20.1%

凍結融解胚移植の妊娠率は33.7%でした。


このデータから、皆さんは何を考えますか?私の見方は以下の如くです。

1)ARTがやはり日本では多いですね。もっとART前に妊娠、出産できるような環境も整える必要があるでしょう。年齢が最も関係しますので、年齢と妊娠の関係の情報をより広めていくなども重要でしょう。

2)ヨーロッパと比べてARTの妊娠率が低いことから、日本の技術が劣っているのではないか、との意見もあります。しかし、凍結融解胚移植の妊娠率はヨーロッパの1.5倍の妊娠率ですね。したがって、技術が低いのではありません。凍結融解胚移植の技術のみが高いなどはあり得ません。むしろヨーロッパよりもARTの技術は高いと思います。
新鮮胚移植の妊娠率が低いのは、採卵している対象の年齢が高い、卵子提供を日本よりも容易におこなえる、反復不成功の症例が比較的多い、などがあると考えています。

3)ヨーロッパでも、日本でも、ICSIよりも、IVFの方が、妊娠率は高いのです
ICSIはIVFよりも高度の技術なので、IVFよりもICSIの方が妊娠率が高い、と誤解されている方がしばしばいらっしゃいます。ICSIは、受精をさせる技術であり、妊娠率を上げる技術ではないのです。IVFで受精するならば、IVFの方が妊娠率が高いのですね。安易にICSIを選ぶのはやはり避ける方が良いでしょう。

4)ヨーロッパの採卵周期あたりの妊娠率と胚移植あたりの妊娠率の差は4%以下で、ほぼ同じです。一方、日本の採卵周期あたりの妊娠率と、胚移植あたりの妊娠率は、2倍以上の差、10%以上の差があります。これはどういうことでしょうか。
日本では採卵を試みても、胚移植できないでキャンセルされる率が高いと考えられます。この原因は日本の特徴が現れている可能性があります。つまり、排卵誘発をマイルドにおこない、卵胞数が少なく採卵できない周期や、採卵できても採卵数が少なくて、受精卵ができずに胚移植できずにキャンセルされる率が高い、という特徴が現れている可能性があるのです。
これが良いかどうかは、様々な考えがあるとは思います。また、データの詳しい解析をしているわけではないので、胚凍結を日本で比較的多くおこなっていることが影響している可能性もあるのですが、このような分析は皆さんはどうお考えになりますでしょうか。




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