2012年10月21日日曜日

卵子若返り治療薬ES-46???

この数日で、卵子若返り治療薬のES-46について、複数の方から質問されました。全く知らないサプリメント?薬?でしたので調べてみました。私がどうこう言うのもおかしいのですが、基本的に疑問が多いので、いくつかの疑問をあげてみました。判断は皆さんご自身でしてみて下さい。この場では判断材料の一部を提示するのみに致します。

1)これを発売している医師は、癌を扱っていた外科医のようです。HPを見る限りは、日本生殖医学会にも受精着床学会にも入会していないようです。
2)日本の医学論文の検索をしましたが、当該医師の癌についての論文はありましたが、不妊症に関しての論文、学会発表は、10月21日現在では検索にはかかりませんでした。
3)ES-46についての、日本語論文も英語論文も検索しましたが見当たりません。
4)日本不妊治療学会は、いつ設立されたかが記載されていません。理事長は当該医師ですが、それ以外の役員の医師名はなく、会員数は20名と記載されています。活動実績が全く分かりません。
5)HP上の数字ですが、体外受精より人工授精の妊娠率が高い、など通常ではない数字です。また、ES-46 を使用していない初回の人工授精が35%もあるような治療成績は見たことがありません。一般的には人工授精の妊娠率は5~10%程度です。また10回以上の体外受精の妊娠率が10%をこえる様な数字も通常ありません。全く実際とは異なる数字と考えられます。
6)当該医師は、「日本アトピー治療学会」の理事長もなさっているようです。「日本不妊治療学会」と同じ手法のようですね。当該医師の検索をグーグルやYAHOOでおこなってみると、かなりきわどい話もでてきました。興味のある方はご自身で調べてみて下さい。

以上、皆さんのご判断のご参考にしてみて下さい。

2012年10月9日火曜日

AMH<0.1で妊娠した3例

今までにも、何例かAMH<0.1で、かなり卵巣機能が低下している方での妊娠例を数例報告していきましたが、今回3例ご紹介致します。AMH<0.1の妊娠例紹介も、そろそろこれで十分かもしれません。

AMH<0.1は、確かに卵子数は少ないのですが、決して採卵数一つではなく、複数採卵出来ることもしばしばあり、自然妊娠もあり得るのです。AMH<0.1になる前に妊娠出来る方が良いのですが、0.1未満でも、諦めずに挑戦する意義はあるでしょう。
また、卵巣機能が低下していても、自然妊娠の可能性を否定しないで、少しでも可能性を広げるために、卵管造影検査などの一般不妊治療の検査や、交渉回数を日頃より多く持つことも大切だと思います。ご参考にして下さい。

1)28歳 AMH<0.1 FSH:11.72 初回の体外受精では採卵できず。2回目の体外受精は自然周期(DHEA4ヶ月内服)で1個採卵・8分割胚移植し妊娠。

2)40歳 AMH<0.1 FSH;10.92 1回目体外受精はHMG注射で排卵誘発するも1個採卵のみで、化学的妊娠。メトグルコとエパデールは1ヶ月前より内服。 2回目はクロミフェン使用しての体外受精。1個採卵し、9分割胚1個移植で1卵性双胎妊娠。メトグルコとエパデールは3ヶ月、DHEAは2ヶ月服用。

3)37歳 AMH<1pM FSH;35.54 月経不順あり。クロミフェンで1個採卵するも、採卵時に異常卵のため体外受精は中止。次の周期に自然妊娠。半年前に卵管造影検査施行で正常。

体外受精や人工授精でも、禁欲期間が長くなればなるほど妊娠率は低下する報告が最近散見します。出来るだけ禁欲期間が短い方(毎日交渉が最も妊娠率が高い)が良いでしょう。当クリニックでは最近は「禁欲は3日以内」をお願いしています。

2012年10月8日月曜日

iPS細胞から卵子を作成

マウスのiPS細胞(新型万能細胞)から卵子を作ることに、京都大が、世界で初めて成功し、この卵子を使用して健康なマウスが誕生した、との報道がありました。
まだ様々な問題があり、直ちに人に応用することはできませんが、将来的に、卵巣機能不全、早発閉経、などの不妊症に利用できる可能性がある報告です。
 これは雌のマウスの皮膚からiPS細胞を作製してから、始原生殖細胞を作り、それから卵子を作製してから受精させて、約10匹の成熟した雌の卵管に移植したところ、2匹から健康な子どものマウス3匹が誕生した。またその子どもの世代も生まれた、とのことです。
iPS 細胞からすぐに卵子が作製できるのではなく、いくつもの段階を経て、またその受精卵をいくつも移植して3匹誕生した、のですから、まだ効率を議論する段階ではありません。
しかし、iPS細胞を使用して、卵子や精子を作製することが可能であると証明された事実は、体外受精をおこなっている私から見ても、非常に衝撃的です。
本日、京都大学の山中教授が、ノーベル医学賞を受賞したとの報道がなされました。昨年は体外受精のエドワード博士がノーベル賞を受賞され、今年はiPS細胞でノーベル賞、また卵子と精子も作製されました。非常に象徴的な出来事が続いています。生殖医学はまた新たな段階に入ったのかもしれません。

2012年9月19日水曜日

チョコレート嚢腫へのダナゾール使用で妊娠された例

チョコレート嚢腫がある方は、体外受精をおこなう対象となるのですが、卵子の質は一般的には不良となります。その場合にはダナゾール(ボンゾール)を使用することも選択肢の一つです。ダナゾールのチョコレート嚢腫への治療と、ステロイド作用が影響している可能性があります。
今月、5cmのチョコレート嚢腫があった方に対して、ボンゾールを使用し、チョコレート嚢腫を吸引して、その後、体外受精・胚移植をおこない、3回目の体外受精で妊娠されて卒業された方がいらっしゃいます。
一般的には、卵巣機能が良い方が対象になるのですが、この方のAMH は0.83でした。
大きなチョコレート嚢腫は、採卵の邪魔になったり、採卵後の感染症、排卵誘発への反応不良、などをおこし、手術が必要になりますが、卵巣の手術により卵巣機能は低下します。
卵巣機能の低下を避けるために、今回のように、ボンゾール・吸引、これに連続して体外受精をおこなう方法も選択肢となり得るのです。

2012年9月9日日曜日

45歳、AMH<0.1での妊娠/卒業(非常に幸運な例なのです)

今年、45歳、AMH<0.1、初回の体外受精で妊娠/卒業された方がいらっしゃいます。先日のお話では、順調に経過しているとのことで、無事に出産されることをただただ祈るのみです。
無事出産されれば、この方は、当クリニックでもトップ3の妊娠/出産例になります。
ただ、この方の妊娠は非常に幸運であったと考えられます。
実際には、40歳以上での妊娠はかなり低くなり、43歳以上での妊娠・出産は1~2%程度でしょう。
体外受精も万能ではありません。年齢は越えられない壁なのです。
当クリニックでも37歳以上方には、体外受精も選択肢に入れる旨をお話ししています。
当クリニックでは、体外受精のみをお勧めする方針ではありませんが、比較的高齢の方は、「何をするにも、急ぎましょう」の考え方をお勧めしています。

AMH<0.1 FSH;11.7の方の妊娠例

先日、アンチミューラリアンホルモンの事に関して、テレビで放映されたようで、木曜日、金曜日に、不妊症でもない方からの検査の電話の問い合わせがいくつも来ました。
当クリニックでは、不妊症の方が対象なので、妊娠を考えていない方の検査はお受けできないことと致しました。皆さんもご了解をお願い致します。
AMHは0.1未満は感度以下ですが、今までも妊娠例をご紹介して参りました。
今回の方は、AMH<0.1 FSH;11.7の方で、クロミフェンの反応も不良であり、プレマリンを使用した自然周期で、1個採卵・胚移植し、先日、妊娠/卒業されました。
困難ではありますが、AMHが感度以下でも、卵胞ができた場合には挑戦していきましょう。

着床障害の主原因は胚の状態です(体外受精11回目での出産報告)

今年の前半に、体外受精11回目で妊娠されて出産された30歳中程の方から、出産報告のはがきを頂きました。無事に妊娠/出産されて胸をなで下ろしています。
この方は、内膜掻爬を2回、また弓状子宮もあり、子宮内膜がいつも薄い方でした。卵子の質もあまり良くなく、精子所見より顕微授精も必要な状況で、また子宮外妊娠も乗り越えての妊娠/出産でした。採卵直前の子宮内膜が7mmで妊娠されています。
経過より、当初は私も内膜が問題と考えていたのですが、実際には胚の状態が問題であった考えられた方です。
着床障害(つまり妊娠しないこと)を子宮や子宮内膜、免疫的な問題であると考える方が少なくないようですが、実際には、胚の状態が最も着床に関係するのです。
子宮内膜の厚さも妊娠/着床に関係しますが、胚の状態が第一に重要であることは変わりはありません。その次に内膜の改善策が位置づけられるのです。
今後も、胚の状態をどのように改善するかを皆さんと考えていきたいと思います。



体外受精4回後の、初回でのHMG-AIHによる妊娠例

今年の前期の妊娠例です。
他施設で5回体外受精を受けて妊娠されない20代後半の方が、当クリニックでHMG-AIHの1回目で妊娠卒業(通院2ヶ月)されました。排卵障害があり、クロミフェン3~4回、HMG注射6回程度での排卵誘発を受けていました。AIHは受けていなかったようです。
今回、ホルモンの状態を見て、HMG注射の種類を考えてAIHをしてみました。
体外受精が最終手段とは考えずに、一般不妊治療での可能性も追求する必要性を感じた例でした。
皆さんも、体外受精のみではなく、妊娠の可能性を少しでも広くする事もお勧め致します。

診療に生き方が表れる? プロフェッショナル-仕事の流儀-(高倉 健スペシャルより)

昨日、NHKのプロフェッショナル(仕事の流儀)高倉 健スペシャルを見ました。日本の映画界を代表する役者にも、役者のあり方に対する悩みがあったことに、驚きと納得を感じました。
また、「演技にはその人の生き方が表れる」との言葉には重みを感じます。
見逃した方は是非再放送の視聴をお勧め致します。
私の診療にも生き方が表れるのでしょうか。葛藤・もがきの毎日ですが、良い意味で生き方が表れる診療をおこないたいものです。

2012年9月2日日曜日

妊婦血液の出生前診断

妊婦血液の出生前診断(新型)
本日、妊婦血液で、ダウン症などの染色体異常(数的異常)を99%の確率で診断できる検査方法が、臨床応用されるにあたっての報道がありました。
対象は、妊娠10週以降の方であり、おもに妊娠7週で転院する当クリニックでは直接関わる可能性は低いですが、様々な注意点があると思うので、コメント致します。

まず最初に注意して頂きたいのは、まだ情報が明確でない部分もあり、すぐに一般の施設でおこなわれる検査ではありません。31日に研究会も発足?したばかりであり、検査の正確性や問題点などの検討はこれからなのです。現時点では臨床研究のみが容認された状況です。
日本産科婦人科学会は、声明で、「安易な実施は慎むべきだ」として、無制限に広がらないよう求める声明を発表した。診断内容や結果を妊婦に正しく理解してもらうため、専門家による診断前後のカウンセリングが不可欠と指摘。医療従事者と妊婦双方に「疾患を多様性として理解し、尊重する姿勢」が必要とした。出生前診断に関する見解を改定し、こうした新たな診断方法について、十分なカウンセリングの実施を求める、などとした。」との立場です。

概略は、インターネットでの記事を転記致します。一部補足
米国の会社が開発した新型妊婦血液の出生前診断 妊婦の血液に含まれる胎児のDNAを調べ、ダウン症の原因となる染色体異常(21番染色体)の有無を99%の確率で診断する。他に2種類の染色体異常(13番、18番染色体)も分かる。妊娠10週から実施可能で、臨床研究施設での費用は21万円の予定。
 従来の血液検査は精度が低く、確定には流産の危険を伴う羊水検査などを行う必要があった。
流産の危険があった従来の検査に比べ、安全に調べることができる一方、異常が見つかれば安易な人工妊娠中絶にもつながることから、カウンセリング体制の整備などが課題になりそうだ。
現時点では臨床研究として行う。

コメントです。
妊娠すると、ごくわずかに胎児の血液が母体血中にも紛れ込みます。この紛れ込んだ胎児血を選び出して、染色体の量を測定することで、染色体の数的異常(ダウン症では21番染色体が通常は2本が3本になっている)を調べる方法です。この研究自体は20年ほど前からなされていましたが、胎児血をどのように選び出すかが課題でした。
これらの「診断」としては、羊水検査や絨毛検査で染色体分析がなされていますが、羊水を採取するのには針による穿刺をして羊水を採取するのでおよそ0.5%程度の流産の可能性がありました。
今回の検査は、母体の採血でおこなえるので、流産の危険性は基本的にはありません。
なお、某女性有名人が受けたクアトロ検査、トリプル検査などの採血による検査は、危険率を計算する「確率計算」であり、「診断」ではありません。
おそらく、この検査をするには、遺伝の専門家によるカウンセリングが必要となる可能性が考えられます。または、実際におこなわれるには検査の指針ができあがってからになるでしょう。厚生労働省も、早期にガイドラインの作成を求めているようです。
したがって、逆にすぐに一般で受けることは困難でしょうし、今はもう少し経過を見る必要があります。


2012年8月30日木曜日

受精着床学会報告(2)低刺激かHMG注射か?

皆さん。ご心配かけました。
何とか受精着床学会の司会に間に合いました。15分前の学会場到着でしたが、何とか役割は務められました。

さて、肝心の発表内容ですが、不妊治療が新しいステージに入ってきたような印象を受けました。
まだまだ不妊治療でおこなえることはたくさんあります。

「成功率の高いART治療とは」シンポジウムで、
効果的な卵巣刺激とは?
セントマザー産婦人科医院の田中 温先生が、JISART各施設での共同検討での成績を発表されました。
今回は、低刺激法(クロミフェンのみか、クロミフェン+HMG隔日投与)
と調節刺激法(ロング法、ショート法、アンタゴニスト法)を
35歳未満の低年齢層と、35~39歳までの中年齢層の2群で比較しました。

中年齢での妊娠成績は、低刺激群で10.3%(10/97)対、調節刺激群で34.2%(52/152)であり、調節刺激群(つまりHMG注射での排卵誘発)群が3倍程度妊娠率が高かったとの報告でした。

低年齢層での妊娠成績は、低刺激22.7%対、調節刺激群34.9%と、調節刺激群が高いものの統計的には有意差はありませんでした。

これらからの結論としては、
1)35歳未満の若い方には、低刺激でもHMG注射での排卵誘発でも、どちらでも良好な成績が期待できるかも。(症例数が増えれば有意差がでる可能性はあり)
2)35~39歳までの方には、HMG注射での排卵誘発が、成績が良い。

3)ただし、40歳以上の方の検討はしていない。(おそらく卵巣機能の低下により、必然的に低刺激法が多くなっているのが実情でしょう。)

もうすぐ東京駅です。本日はここまでです。また明日以降報告致します。

受精着床学会参加報告(1) 朝からてんやわんや

本日より、日本受精着床学会が始まります。
今回の受精着床学会は、アジア太平洋生殖医学会(ASPIRF2012)との共同開催もあるのか、受着学会の内容は前年にもまして非常に興味が持てて有用な内容が目白押しです。皆さんにもいくつかの報告を致します。
ところで、私の司会セッションは10時からの予定ですが、朝の始発の新幹線に乗り遅れ、後発の「のぞみ」に何とか「のぞみ」を託して乗り込み、間に合ってくれることを祈りながらのブログです。少しでもトラブルがあれば司会遅刻です。知り合いの先生方にご迷惑をかけることだけは避けたい。間に合ってくれ~。
事情を説明するならば、学会に参加するには様々な準備が必要なのです。昨日(今朝)は1時半までかかって雑用を済ませ、留守の先生方のために机の周りのゴミ?(高橋は宝の山と言っているのですが)を(少し)かたづけるなど、大変なのです。朝4時半にはおきる必要があったのですが、2個の目覚まし時計の音には全く反応せず(鳴った記憶が全くありません)、愛妻?????の声にはすぐに反応して飛び起きて、駅へと駆け込んだのでした。
学会の報告は、抄録集も見ながら次回より致します。
もうすぐ京都駅です。

2012年8月23日木曜日

国際学会の恐怖と帰国してからの英会話学校ワイルド~

8月30日には、大阪で受精着床学会、9月1,2日には、アジア太平洋生殖国際学会(ASPIRE)が開催されますので、参加して様々な情報を収集して、皆さんに還元致します。
幸か(不幸か)受精着床学会でもAPSIREでも、1セッションの司会を任されているのです。受精着床学会ではカウンセリングのセッションを、ASPIREでは、胚の成長過程のセッションを担当します。
問題は、国際学会の司会を、英語でしなければならないことです。半数以上が日本人だと思いますが、日本人の前で英語を話すことの辛さ・恐怖をご理解頂けますでしょうか?英語が必ずしも得意でない人間には、外人(だけ)と英語で話すことはそれほど恐怖ではないのですが、日本人のまえで英語を話すのは非常に恐怖なのです。
アメリカのシアトル近辺で、「職場の周辺の人は、留学から帰国してきた人間は英語がべらべらだから、外人の相手(患者)はすべて回してくる。(1年程度で英会話がべらべらになるわけないのです。実際には頭の中はべろんべろんです。)だから、帰国したら真剣に英会話学校にいかなくてはならない」というジョークが、現地の日本人の中でひととき流行したそうです。
実はこのジョークは、私がシアトルにいたときに「真剣に」「ジョークなどとは思わずに」「受けを狙わずに」友人に話したことだったと自分では思っています。
高橋のワシントン大学留学の主だった成果は、このジョークのみだったのか???
少しはクラミジアの研究もしたんだけどな~!ワイルドだぜ~!

不妊治療2012、学会参加の意義

このところ様々な用事が重なり、アップできませんで、久しぶりのブログです。
8月18日と19日に、横浜で「不妊治療2012」というセミナーに参加してきました。今回も非常にインパクトのある内容でした。
不妊治療の最近の流れや習慣流産(検査と治療)、排卵誘発、着床障害(子宮内膜の改善法)、アンチミューラリアンホルモン(考え方と利用法)などのテーマでの講演がありましたが、このようなセミナーに出ると非常に元気がわきます。まだまだ不妊治療でおこなえることがあるのですね。
皆さんにもできるだけ早く、勉強会で仕入れたものを提供していきたいと思います。
これを機会に、9月ぐらいより、高橋ウイメンズクリニックのレベルアップした不妊治療を提供したいと思います。

AMH<0.1、FSH>30でも5個採卵できた方

1ヶ月の空白期間でした。酷暑の毎日が続きますが、皆さんお変わりありませんでしょうか。
この1ヶ月は夏休みのはずなのですが、日々の用事に追われ、ブログも書けずに1ヶ月があっという間に過ぎてしまいました。
また、様々な情報をお伝え致します。
今回ご紹介は、40歳の方です。
生理が不順で、AMH<0.1、FSH>30を示した方です。
初回の体外受精ではショート法で、卵胞発育不十分でキャンセル。
2回目の体外受精は自然周期で1個採卵胚移植。3回目は排卵後でキャンセル。
4回目はHMG法でなんと5個採卵、2個胚移植で妊娠しないものの、1個胚盤胞凍結。
という結果でした。
まだ成功されているわけではありません。しかし、AMH<0.1、FSH>30はほぼ閉経に近いと考えられますが、DHEAとビタミン剤などの強力な補充、ウォーキングなどの循環改善策(と勝手に考えています)により、今回5個も採卵できたことは多くの方が勇気を得られる事かもしれませんので、今回報告致します。
1例のみでは偶然おきたことかもしれませんが、AMH<0.1、FSH>30であっても、すぐに諦めるのではなく、このような方法を試みても良いのではないでしょうか。
今後残っている凍結胚移植で、良い結果が得られた場合にはまた皆さんにご報告致します。

2012年7月21日土曜日

体外受精・顕微授精は最後の手段なのでしょうか?

皆さん、体外受精・顕微授精は「最後の手段」と考えていませんか?
答えは、、、、、最後の手段とは考えずに、不妊治療の一手段と考えて下さい。

本日、体外受精を他院で1回、当院で1回(妊娠後流産)受けた方で、自然妊娠された方がいらっしゃいました。このようなことは当クリニックでも時々あります。
当クリニックでは、体外受精の予定の方でも卵管造影検査をお勧めしています。この理由は二つあります。一つは、重症の卵管水腫があると体外受精での成績も1/2~1/3に低下します。したがって卵管水腫がないかどうかを調べる必要があると考えているからです。もう一つは、最も多い不妊原因は卵管因子です。しかし、卵管造影検査は重要なのですが、しばしば卵管造影検査を受けずに体外受精に進んでいる方がおいでなのです。したがって、少しでも妊娠の可能性をあげるために、体外受精を希望される方にも卵管造影検査をお勧めしています。

皆さん、不妊治療において、体外受精は最終手段と考えていませんか?
体外受精は、「不妊治療の最後の手段」ではなく「不妊治療の一つの治療法」と考えて頂く方がよいでしょう。

この考えには、いくつかの解説が必要です。

「体外受精は最後の手段」と考えて、「体外受精を受けたらば、その後がない」ので、体外受精を受けることをためらう方が時々いらっしゃいます。そのために、体外受精が必要な状況にもかかわらず、その時期を逸してしまう方がいらっしゃるのです。体外受精が本当に必要な方は、早めに受ける事をお勧め致します。ただし、誤解を招かないように、追加させて頂きますが、体外受精を強力にお勧めしているのではありません。最近は安易に体外受精に進みすぎる事がしばしば見受けられると思っています。むしろもっと一般不妊治療をしっかりとしてから、機を逸することなく体外受精に進むことをお勧めしているのです。(話がどんどん長くなってしまうのが私の悪い習慣です)

一方、体外受精を受けた場合には、「体外受精以外の方法では妊娠できる可能性がほとんどない」と考えて、妊娠の手段を体外受精しか考えられない方、は多くいらっしゃいます。しかし、卵管が通っていて、精子がいるならば妊娠する可能性はあるのです。少しでも妊娠の可能性を高めるならば、体外受精だけに(決めつけて)頼るのではなく、タイミング・卵管造影検査・人工授精などの方法でも妊娠の可能性を追求した方が良いのではないでしょうか。体外受精を過大評価することにより、それ以外の妊娠の可能性を放棄して、ご自身で妊娠の可能性を狭めてしまっている方はたくさんいらっしゃいます。
現在では、体外受精や顕微授精の基本的な方法はほぼ確立しており、(単に)体外受精をすること自体は難しいことではありません。ただし、良い成績を出すこと自体は簡単ではなく、常に勉強・工夫が必要なのです。
ここからは、各医師の、考え方・哲学になっていくのかもしれません。
私は、「体外受精/顕微授精を最後の手段」とは考えずに、「体外受精も不妊治療の一手段」と考えて、体外受精を受けている方にも、少しでも妊娠の可能性を高めるために、体外受精以外での妊娠の可能性も常に追求するように説明しています。もちろん、体外受精/顕微授精しか手段のない方はいらっしゃいますので、その方には最高の体外受精技術を提供できる様に努力しています。

「体外受精を最後の手段と考えて、ご自身の妊娠の可能性を狭める」のではなく、「必要ならばためらわずに受け、一方、体外受精以外の方法でも妊娠の可能性をつねに追求していく」ことが、皆さんご自身にとっての妊娠の可能性が高い方法ではないでしょうか。

皆さんも、不妊治療を一つの手段のみに頼るのではなく、様々な可能性を利用して、少しでも良い成績を得られるように考えてみては如何でしょうか。

2012年7月17日火曜日

禁欲期間と精子の質

本日は、禁欲期間と精子の質について、ある文献を目にしましたので、お伝え致します。
当クリニックでは、従来より、「性交渉は多ければ多いほど妊娠率が高い。実際には毎日性交渉があるカップルが最も妊娠率が高い。」と、お話をしています。「性交渉交渉も持ちすぎると、精子が薄くなって妊娠率が下がる。」のは間違いであり、むしろ「古い精子などためておいても妊娠率は上がらない。」と考えて頂いた方が良いのです。「精子の濃さ」と「妊娠しやすさ」を単純に比例すると考えるのは間違いなのです。
今回の論文は、この考えを支持する結果でした。
内容は、以下のごとくです。

禁欲期間が短いほうが精子のDNA損傷率が低くなる


男性の禁欲期間が短く、選別した精子のほうが、DNA損傷率が低いことを、スペインのグループが報告しました。
96時間(4日間)の禁欲の後と、その後24時間毎に射精した96時間後のDNA損傷率を比較した。
96時間の禁欲後の平均の精子DNA損傷率は22.2%であったのに対して、24時間毎に射精した96時間後は17.0%と、DNA損傷率が25%低下した。

また、密度勾配法(パーコール法:当クリニックでも採用)で選別した精子では、96時間の禁欲の後よりも、その3時間後に射精したほうが48%もDNA損傷率が低下していた。

男性の禁欲期間が短く、そして、密度勾配遠心分離法によって選別した精子のほうがDNA損傷率が低いことがわかりました。

従来、自然妊娠でも、人工授精や体外受精に用いる場合でも、3~4日くらいの禁欲期間を設けるほうが妊娠に有利であるとしばしば聞きますが、禁欲期間が短いほうがDNAの損傷率が低いこと、人工授精でも洗浄・分離した方良いことがこの研究でも示されました。
皆さん、性交渉はどんどん持って頂く方が、精子も良いのですよ。禁欲期間は特にいらないのです。

2012年7月13日金曜日

説明されない不妊治療のリスク(2012/7/12NHKニュースより)

本日2012.7.12朝7時のNHKニュースで、「説明されない不妊治療のリスク」についての報道がありました。本日患者さんから教えて頂いたので、朝のニュースを見直してみて、感想を述べたいと思います。確かに不妊治療でのリスクについては、現状では十分に伝わっていないと感じます。ただ、その原因が主に医療提供者側にあるかのような印象をもたれるのは非常に残念です。当事者としては、医療提供者側の情報の積極的な開示とともに、この報道を機会に、患者さんの注意も喚起されればと考えます。
まず最初に、不妊治療(特に体外受精)についての前提をお伝えします。
体外受精がおこなわれておよそ30年たちます。非常に新しい分野であり、いまだによく分かっていないことはたくさんあります。体外受精で生まれた方は、最高齢30歳程度であり、それ以上の年齢の方は世の中に存在しません。したがって安全性については、30年間のデータしか存在しないのです
一般的にも、新技術や新薬などでは安全性に関しては確立されてはいないのです。したがって体外受精などの技術に関しては、すべてのリスクが説明することは不可能であることをご理解頂く必要があるのです。
当クリニックのパンフレットにも書いていますが、30年間のデータしか存在せず、安全性に関しては確立していないのです。

医療従事者側からの感想を述べます。
まず、日本産科婦人科学会では、体外受精をおこなう方に対するパンフレットには、体外受精のリスクについての説明をするように、各施設を具体的に指導しています。したがって、皆さんが各施設から渡されているパンフレットには、必ずリスクについての記載があるはずです。今回を機会に,再度パンフレットを読み直してみて下さい。
「ニュースでは、胚盤胞の一卵性双胎のリスクは自然妊娠の3倍との説明でした。3倍とのリスクは、「胚盤胞での一卵性双胎は、胚盤胞による妊娠者の1%におこります」と言うことです。リスクの倍数を言うならば、その発生頻度も説明して欲しいと思います。あたかもたくさんおこるような漠然とした伝え方は、大きな混乱を招きます。
これが分かってきたのは、ニュースでも言われたように、「最近の事」なのです。したがって、今回の例のように、まだそのリスクが一般的な事となっていない状況では、一卵性双胎の可能性の説明がされていない状況が、医療提供者側の怠慢のように受け取られるのは非常に残念なことです。
なお、最近、当クリニックでも胚盤胞1個移植で、13年間で初めて、一卵性三胎が発生しました。発生頻度は0.1%未満と推測されます。このようなこともおこり得るのですね。例えば、このことを皆さんに説明することはおそらく少ないでしょう。すべてのことが説明される、ことは実際には困難なのです。

体外受精の一般的なリスク
皆さんに知っておいて頂きたい体外受精のリスクを、いくつかあげてみましょう。
1)体外受精での出生された方は、せいぜい30歳であり、生殖機能や老化の進行に関してのデータは30年間のみであり、それ以上のデータは存在しません。したがって、将来にわたっての安全性のデータは存在しないのです。それを前提に体外受精を受ける必要があります。今回の胚盤胞の多胎リスク情報も、「最近分かってきたこと」であり、今後もこのように新たに分かることは出てくるでしょう。
2)体外受精での出生児には、自然妊娠と比べて奇形の発生などはほぼ同じか、若干増加するとの報告が大勢を占めます。したがって、20歳までの短期的には体外受精は大きな問題はないとされます。
3)顕微授精は、せいぜい15年間のデータしか存在しません。奇形率や染色体異常は、自然妊娠や体外受精妊娠に比較して、1.5~2倍程度(1~2%程度の発生率)に増加します。20歳以上の顕微授精の安全性のデータは存在しません。
4)多胎妊娠は、双胎では単胎の4~5倍の事故(流産・早産・奇形・胎児死亡・脳性麻痺など)発生率、3胎では10倍の事故発生率に上昇します。日本産科婦人科学会では、移植胚は原則1個であり、多くても2個までと通達しています。このリスクをご理解下さい。双子をご希望する方が少なくありませんが、そのリスクについて知っている方は少ないのです。医学的には一人ずつ妊娠することが最も良いのです。不妊治療医師も出産までの事を考えて治療しています。我々の最終目標は、「妊娠」ではなく、「無事に元気なお子さんを抱く」事なのです。この点は、治療を受ける皆さんにも理解して頂きたいと思います。
5)高齢での妊娠(特に40歳以上)は、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)、染色体異常児の発生率の上昇、母体の脳出血・死亡、などのリスクが急上昇します。高齢での妊娠・出産は命がけなのです。これらは前兆がなく突然起こる事が多く、予防はとても困難なのです。

いずれにしても、新しい技術を受けるということは、リスクについてはまだ曖昧な点が新しいだけ多くあることをご理解頂きたいと思います。
ニュースでも、患者側も妊娠率については興味があるが、リスクへを知ろうとはしない傾向がある、旨の話もありました。
これを機会に、医療提供者側も新しい情報を積極的に発信し、受ける患者さん側もリスクにも目を向けていく必要があるでしょう。

昨年の妊娠数(再掲)と千葉県の調査(読売新聞)の分析

当クリニックの2011年の総妊娠数は、4月7日にすでにブログでも報告致しましたが768件でした。

5月6日に読売新聞の不妊治療の調査結果が掲載されました。
高橋ウイメンズクリニックは掲載されませんでしたが、多くの方からお問い合わせを頂きましたので、今回、当クリニックの2011年の成績をお知らせ致します。今回、当クリニックが掲載されなかった理由は読売新聞の求めるデータと当クリニックの回答が食い違っていたことのようです。しかし、全国の回収率は48%であり、調査の半数は回答していないようです。最も多いとされる新宿のKレディスクリニック、新橋Yクリニック、東京Fクリニックなど、有数の施設も掲載されていません。今回の全国調査は必ずしも正確なデータではありませんので、当クリニックのデータも含め参考程度にお考え下さい。

高橋ウイメンズクリニック
           2011年
総妊娠数             768件

生殖補助医療(ART)妊娠   414件 (54%)          

一般不妊治療妊娠数      354件 (46%)


年間、768件の妊娠数は、日本大震災の影響もあり、例年(900件前後の妊娠数)よりも少なくなりました。
ART妊娠数が、一般不妊治療を抜いています。最近の体外受精の増加を物語っています。


生殖補助医療(ART)妊娠内訳                

体外受精(採卵周期)妊娠   147件    36% 

    
顕微授精(採卵周期)妊娠   49件     12% 

凍結融解胚移植妊娠      218件    53% 


採卵周期の胚移植よりも、凍結融解胚移植の方が、多くなっていますが、これは全国的な傾向だと思います。
この件数は知る限りにおいて千葉県ではトップの実績数です。ただし、先に記載しましたが、数字は単に目安にしか過ぎません。皆さん一人一人に最も良い施設は、数字は参考程度に考えて、ご自身が信頼の置ける医師やスタッフに会えるかどうかで考えてみては如何でしょう。

今回は、当クリニックの簡単な成績を報告致しました。
詳細に検討したデータは次の機会にお示し致します。

何とか、大震災の影響を凌いできた1年でしたが、これも当クリニックを信頼して来院して下さった皆さんや職員の支えによると考えています。支えて下さった皆さんに御礼申し上げます。
私の存在意義は、生まれ育った地元千葉県において不妊治療をできるだけ長く担っていくことにあると考えています。自分の人生をかけた仕事(幸いにも迷わずに人生をかけられる仕事を得られたこと自体が幸福であると考えています)ですので、今後も信頼の置ける医療技術(大切なのは技術だけではないとは思いますが)を提供して参りたいと思います。
高橋ウイメンズクリニックを今後もよろしくお願い致します。
高橋ウイメンズクリニック
院長 高橋敬一


2012年6月9日土曜日

AMH 0.1未満での妊娠例

3週間のお休みでした。毎日の診療に忙しく、ご紹介が疎かになり、ご期待?に沿えずに申し訳ありません。
今回は、AMH<0.1、FSH:55.84とほとんど閉経に近い方の妊娠例をご紹介致します。
41歳の方で、妊娠歴なし。生理不順で、FSH注射での卵胞発育も認めませんでした。2~3か月に1回程度排卵を認めていましたが、卵胞は2cm前に排卵してしまいます。
採卵を10回試みて、採卵できたのは6回、移植できたのは3回目で妊娠しました。
このときの排卵誘発はなく、プレマリンを使用しての自然周期で、採卵3日前の卵胞は14X13mmの1個、内膜6.3mmでした。
このように、AMH<0.1で、FSHが高い方には、排卵誘発剤はほとんど効果ありません。プレマリンを使用して、上昇したFSHを下げて卵巣を休ませつつ自然の排卵発育を待って、体外受精をすることで妊娠する例がしばしばあります。
全く生理がなく閉経状態では難しいとは思いますが、卵巣機能が低下している場合でも、まれにでも排卵している場合には、よく観察して少ないチャンスを見つけて挑戦する意義はあると思います。同じような方に、ご参考になれば幸いです。