2012年8月23日木曜日

不妊治療2012、学会参加の意義

このところ様々な用事が重なり、アップできませんで、久しぶりのブログです。
8月18日と19日に、横浜で「不妊治療2012」というセミナーに参加してきました。今回も非常にインパクトのある内容でした。
不妊治療の最近の流れや習慣流産(検査と治療)、排卵誘発、着床障害(子宮内膜の改善法)、アンチミューラリアンホルモン(考え方と利用法)などのテーマでの講演がありましたが、このようなセミナーに出ると非常に元気がわきます。まだまだ不妊治療でおこなえることがあるのですね。
皆さんにもできるだけ早く、勉強会で仕入れたものを提供していきたいと思います。
これを機会に、9月ぐらいより、高橋ウイメンズクリニックのレベルアップした不妊治療を提供したいと思います。

AMH<0.1、FSH>30でも5個採卵できた方

1ヶ月の空白期間でした。酷暑の毎日が続きますが、皆さんお変わりありませんでしょうか。
この1ヶ月は夏休みのはずなのですが、日々の用事に追われ、ブログも書けずに1ヶ月があっという間に過ぎてしまいました。
また、様々な情報をお伝え致します。
今回ご紹介は、40歳の方です。
生理が不順で、AMH<0.1、FSH>30を示した方です。
初回の体外受精ではショート法で、卵胞発育不十分でキャンセル。
2回目の体外受精は自然周期で1個採卵胚移植。3回目は排卵後でキャンセル。
4回目はHMG法でなんと5個採卵、2個胚移植で妊娠しないものの、1個胚盤胞凍結。
という結果でした。
まだ成功されているわけではありません。しかし、AMH<0.1、FSH>30はほぼ閉経に近いと考えられますが、DHEAとビタミン剤などの強力な補充、ウォーキングなどの循環改善策(と勝手に考えています)により、今回5個も採卵できたことは多くの方が勇気を得られる事かもしれませんので、今回報告致します。
1例のみでは偶然おきたことかもしれませんが、AMH<0.1、FSH>30であっても、すぐに諦めるのではなく、このような方法を試みても良いのではないでしょうか。
今後残っている凍結胚移植で、良い結果が得られた場合にはまた皆さんにご報告致します。

2012年7月21日土曜日

体外受精・顕微授精は最後の手段なのでしょうか?

皆さん、体外受精・顕微授精は「最後の手段」と考えていませんか?
答えは、、、、、最後の手段とは考えずに、不妊治療の一手段と考えて下さい。

本日、体外受精を他院で1回、当院で1回(妊娠後流産)受けた方で、自然妊娠された方がいらっしゃいました。このようなことは当クリニックでも時々あります。
当クリニックでは、体外受精の予定の方でも卵管造影検査をお勧めしています。この理由は二つあります。一つは、重症の卵管水腫があると体外受精での成績も1/2~1/3に低下します。したがって卵管水腫がないかどうかを調べる必要があると考えているからです。もう一つは、最も多い不妊原因は卵管因子です。しかし、卵管造影検査は重要なのですが、しばしば卵管造影検査を受けずに体外受精に進んでいる方がおいでなのです。したがって、少しでも妊娠の可能性をあげるために、体外受精を希望される方にも卵管造影検査をお勧めしています。

皆さん、不妊治療において、体外受精は最終手段と考えていませんか?
体外受精は、「不妊治療の最後の手段」ではなく「不妊治療の一つの治療法」と考えて頂く方がよいでしょう。

この考えには、いくつかの解説が必要です。

「体外受精は最後の手段」と考えて、「体外受精を受けたらば、その後がない」ので、体外受精を受けることをためらう方が時々いらっしゃいます。そのために、体外受精が必要な状況にもかかわらず、その時期を逸してしまう方がいらっしゃるのです。体外受精が本当に必要な方は、早めに受ける事をお勧め致します。ただし、誤解を招かないように、追加させて頂きますが、体外受精を強力にお勧めしているのではありません。最近は安易に体外受精に進みすぎる事がしばしば見受けられると思っています。むしろもっと一般不妊治療をしっかりとしてから、機を逸することなく体外受精に進むことをお勧めしているのです。(話がどんどん長くなってしまうのが私の悪い習慣です)

一方、体外受精を受けた場合には、「体外受精以外の方法では妊娠できる可能性がほとんどない」と考えて、妊娠の手段を体外受精しか考えられない方、は多くいらっしゃいます。しかし、卵管が通っていて、精子がいるならば妊娠する可能性はあるのです。少しでも妊娠の可能性を高めるならば、体外受精だけに(決めつけて)頼るのではなく、タイミング・卵管造影検査・人工授精などの方法でも妊娠の可能性を追求した方が良いのではないでしょうか。体外受精を過大評価することにより、それ以外の妊娠の可能性を放棄して、ご自身で妊娠の可能性を狭めてしまっている方はたくさんいらっしゃいます。
現在では、体外受精や顕微授精の基本的な方法はほぼ確立しており、(単に)体外受精をすること自体は難しいことではありません。ただし、良い成績を出すこと自体は簡単ではなく、常に勉強・工夫が必要なのです。
ここからは、各医師の、考え方・哲学になっていくのかもしれません。
私は、「体外受精/顕微授精を最後の手段」とは考えずに、「体外受精も不妊治療の一手段」と考えて、体外受精を受けている方にも、少しでも妊娠の可能性を高めるために、体外受精以外での妊娠の可能性も常に追求するように説明しています。もちろん、体外受精/顕微授精しか手段のない方はいらっしゃいますので、その方には最高の体外受精技術を提供できる様に努力しています。

「体外受精を最後の手段と考えて、ご自身の妊娠の可能性を狭める」のではなく、「必要ならばためらわずに受け、一方、体外受精以外の方法でも妊娠の可能性をつねに追求していく」ことが、皆さんご自身にとっての妊娠の可能性が高い方法ではないでしょうか。

皆さんも、不妊治療を一つの手段のみに頼るのではなく、様々な可能性を利用して、少しでも良い成績を得られるように考えてみては如何でしょうか。

2012年7月17日火曜日

禁欲期間と精子の質

本日は、禁欲期間と精子の質について、ある文献を目にしましたので、お伝え致します。
当クリニックでは、従来より、「性交渉は多ければ多いほど妊娠率が高い。実際には毎日性交渉があるカップルが最も妊娠率が高い。」と、お話をしています。「性交渉交渉も持ちすぎると、精子が薄くなって妊娠率が下がる。」のは間違いであり、むしろ「古い精子などためておいても妊娠率は上がらない。」と考えて頂いた方が良いのです。「精子の濃さ」と「妊娠しやすさ」を単純に比例すると考えるのは間違いなのです。
今回の論文は、この考えを支持する結果でした。
内容は、以下のごとくです。

禁欲期間が短いほうが精子のDNA損傷率が低くなる


男性の禁欲期間が短く、選別した精子のほうが、DNA損傷率が低いことを、スペインのグループが報告しました。
96時間(4日間)の禁欲の後と、その後24時間毎に射精した96時間後のDNA損傷率を比較した。
96時間の禁欲後の平均の精子DNA損傷率は22.2%であったのに対して、24時間毎に射精した96時間後は17.0%と、DNA損傷率が25%低下した。

また、密度勾配法(パーコール法:当クリニックでも採用)で選別した精子では、96時間の禁欲の後よりも、その3時間後に射精したほうが48%もDNA損傷率が低下していた。

男性の禁欲期間が短く、そして、密度勾配遠心分離法によって選別した精子のほうがDNA損傷率が低いことがわかりました。

従来、自然妊娠でも、人工授精や体外受精に用いる場合でも、3~4日くらいの禁欲期間を設けるほうが妊娠に有利であるとしばしば聞きますが、禁欲期間が短いほうがDNAの損傷率が低いこと、人工授精でも洗浄・分離した方良いことがこの研究でも示されました。
皆さん、性交渉はどんどん持って頂く方が、精子も良いのですよ。禁欲期間は特にいらないのです。

2012年7月13日金曜日

説明されない不妊治療のリスク(2012/7/12NHKニュースより)

本日2012.7.12朝7時のNHKニュースで、「説明されない不妊治療のリスク」についての報道がありました。本日患者さんから教えて頂いたので、朝のニュースを見直してみて、感想を述べたいと思います。確かに不妊治療でのリスクについては、現状では十分に伝わっていないと感じます。ただ、その原因が主に医療提供者側にあるかのような印象をもたれるのは非常に残念です。当事者としては、医療提供者側の情報の積極的な開示とともに、この報道を機会に、患者さんの注意も喚起されればと考えます。
まず最初に、不妊治療(特に体外受精)についての前提をお伝えします。
体外受精がおこなわれておよそ30年たちます。非常に新しい分野であり、いまだによく分かっていないことはたくさんあります。体外受精で生まれた方は、最高齢30歳程度であり、それ以上の年齢の方は世の中に存在しません。したがって安全性については、30年間のデータしか存在しないのです
一般的にも、新技術や新薬などでは安全性に関しては確立されてはいないのです。したがって体外受精などの技術に関しては、すべてのリスクが説明することは不可能であることをご理解頂く必要があるのです。
当クリニックのパンフレットにも書いていますが、30年間のデータしか存在せず、安全性に関しては確立していないのです。

医療従事者側からの感想を述べます。
まず、日本産科婦人科学会では、体外受精をおこなう方に対するパンフレットには、体外受精のリスクについての説明をするように、各施設を具体的に指導しています。したがって、皆さんが各施設から渡されているパンフレットには、必ずリスクについての記載があるはずです。今回を機会に,再度パンフレットを読み直してみて下さい。
「ニュースでは、胚盤胞の一卵性双胎のリスクは自然妊娠の3倍との説明でした。3倍とのリスクは、「胚盤胞での一卵性双胎は、胚盤胞による妊娠者の1%におこります」と言うことです。リスクの倍数を言うならば、その発生頻度も説明して欲しいと思います。あたかもたくさんおこるような漠然とした伝え方は、大きな混乱を招きます。
これが分かってきたのは、ニュースでも言われたように、「最近の事」なのです。したがって、今回の例のように、まだそのリスクが一般的な事となっていない状況では、一卵性双胎の可能性の説明がされていない状況が、医療提供者側の怠慢のように受け取られるのは非常に残念なことです。
なお、最近、当クリニックでも胚盤胞1個移植で、13年間で初めて、一卵性三胎が発生しました。発生頻度は0.1%未満と推測されます。このようなこともおこり得るのですね。例えば、このことを皆さんに説明することはおそらく少ないでしょう。すべてのことが説明される、ことは実際には困難なのです。

体外受精の一般的なリスク
皆さんに知っておいて頂きたい体外受精のリスクを、いくつかあげてみましょう。
1)体外受精での出生された方は、せいぜい30歳であり、生殖機能や老化の進行に関してのデータは30年間のみであり、それ以上のデータは存在しません。したがって、将来にわたっての安全性のデータは存在しないのです。それを前提に体外受精を受ける必要があります。今回の胚盤胞の多胎リスク情報も、「最近分かってきたこと」であり、今後もこのように新たに分かることは出てくるでしょう。
2)体外受精での出生児には、自然妊娠と比べて奇形の発生などはほぼ同じか、若干増加するとの報告が大勢を占めます。したがって、20歳までの短期的には体外受精は大きな問題はないとされます。
3)顕微授精は、せいぜい15年間のデータしか存在しません。奇形率や染色体異常は、自然妊娠や体外受精妊娠に比較して、1.5~2倍程度(1~2%程度の発生率)に増加します。20歳以上の顕微授精の安全性のデータは存在しません。
4)多胎妊娠は、双胎では単胎の4~5倍の事故(流産・早産・奇形・胎児死亡・脳性麻痺など)発生率、3胎では10倍の事故発生率に上昇します。日本産科婦人科学会では、移植胚は原則1個であり、多くても2個までと通達しています。このリスクをご理解下さい。双子をご希望する方が少なくありませんが、そのリスクについて知っている方は少ないのです。医学的には一人ずつ妊娠することが最も良いのです。不妊治療医師も出産までの事を考えて治療しています。我々の最終目標は、「妊娠」ではなく、「無事に元気なお子さんを抱く」事なのです。この点は、治療を受ける皆さんにも理解して頂きたいと思います。
5)高齢での妊娠(特に40歳以上)は、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)、染色体異常児の発生率の上昇、母体の脳出血・死亡、などのリスクが急上昇します。高齢での妊娠・出産は命がけなのです。これらは前兆がなく突然起こる事が多く、予防はとても困難なのです。

いずれにしても、新しい技術を受けるということは、リスクについてはまだ曖昧な点が新しいだけ多くあることをご理解頂きたいと思います。
ニュースでも、患者側も妊娠率については興味があるが、リスクへを知ろうとはしない傾向がある、旨の話もありました。
これを機会に、医療提供者側も新しい情報を積極的に発信し、受ける患者さん側もリスクにも目を向けていく必要があるでしょう。

昨年の妊娠数(再掲)と千葉県の調査(読売新聞)の分析

当クリニックの2011年の総妊娠数は、4月7日にすでにブログでも報告致しましたが768件でした。

5月6日に読売新聞の不妊治療の調査結果が掲載されました。
高橋ウイメンズクリニックは掲載されませんでしたが、多くの方からお問い合わせを頂きましたので、今回、当クリニックの2011年の成績をお知らせ致します。今回、当クリニックが掲載されなかった理由は読売新聞の求めるデータと当クリニックの回答が食い違っていたことのようです。しかし、全国の回収率は48%であり、調査の半数は回答していないようです。最も多いとされる新宿のKレディスクリニック、新橋Yクリニック、東京Fクリニックなど、有数の施設も掲載されていません。今回の全国調査は必ずしも正確なデータではありませんので、当クリニックのデータも含め参考程度にお考え下さい。

高橋ウイメンズクリニック
           2011年
総妊娠数             768件

生殖補助医療(ART)妊娠   414件 (54%)          

一般不妊治療妊娠数      354件 (46%)


年間、768件の妊娠数は、日本大震災の影響もあり、例年(900件前後の妊娠数)よりも少なくなりました。
ART妊娠数が、一般不妊治療を抜いています。最近の体外受精の増加を物語っています。


生殖補助医療(ART)妊娠内訳                

体外受精(採卵周期)妊娠   147件    36% 

    
顕微授精(採卵周期)妊娠   49件     12% 

凍結融解胚移植妊娠      218件    53% 


採卵周期の胚移植よりも、凍結融解胚移植の方が、多くなっていますが、これは全国的な傾向だと思います。
この件数は知る限りにおいて千葉県ではトップの実績数です。ただし、先に記載しましたが、数字は単に目安にしか過ぎません。皆さん一人一人に最も良い施設は、数字は参考程度に考えて、ご自身が信頼の置ける医師やスタッフに会えるかどうかで考えてみては如何でしょう。

今回は、当クリニックの簡単な成績を報告致しました。
詳細に検討したデータは次の機会にお示し致します。

何とか、大震災の影響を凌いできた1年でしたが、これも当クリニックを信頼して来院して下さった皆さんや職員の支えによると考えています。支えて下さった皆さんに御礼申し上げます。
私の存在意義は、生まれ育った地元千葉県において不妊治療をできるだけ長く担っていくことにあると考えています。自分の人生をかけた仕事(幸いにも迷わずに人生をかけられる仕事を得られたこと自体が幸福であると考えています)ですので、今後も信頼の置ける医療技術(大切なのは技術だけではないとは思いますが)を提供して参りたいと思います。
高橋ウイメンズクリニックを今後もよろしくお願い致します。
高橋ウイメンズクリニック
院長 高橋敬一


2012年6月9日土曜日

AMH 0.1未満での妊娠例

3週間のお休みでした。毎日の診療に忙しく、ご紹介が疎かになり、ご期待?に沿えずに申し訳ありません。
今回は、AMH<0.1、FSH:55.84とほとんど閉経に近い方の妊娠例をご紹介致します。
41歳の方で、妊娠歴なし。生理不順で、FSH注射での卵胞発育も認めませんでした。2~3か月に1回程度排卵を認めていましたが、卵胞は2cm前に排卵してしまいます。
採卵を10回試みて、採卵できたのは6回、移植できたのは3回目で妊娠しました。
このときの排卵誘発はなく、プレマリンを使用しての自然周期で、採卵3日前の卵胞は14X13mmの1個、内膜6.3mmでした。
このように、AMH<0.1で、FSHが高い方には、排卵誘発剤はほとんど効果ありません。プレマリンを使用して、上昇したFSHを下げて卵巣を休ませつつ自然の排卵発育を待って、体外受精をすることで妊娠する例がしばしばあります。
全く生理がなく閉経状態では難しいとは思いますが、卵巣機能が低下している場合でも、まれにでも排卵している場合には、よく観察して少ないチャンスを見つけて挑戦する意義はあると思います。同じような方に、ご参考になれば幸いです。

2012年5月15日火曜日

体外受精と顕微授精での先天奇形発生リスク

2週間のご無沙汰でした。パソコンを更新したのですが、設定に時間がかかり、ブログを更新することが疎かになってしまいました。 やっと再開できましたので、再開のご挨拶とまた皆さんに情報提供を致します。 体外受精とイントラリピッドの関係は皆さん興味が大変あるようですので、もう少し調査してからご報告致します。 本日は、体外受精と顕微授精のリスクについて、見つけましたので転記ご紹介致します。 New England Journal of Medicineという非常に権威のある(つまり報告に信頼性のある)論文で、オーストラリアでの31万件の出産でのデータ報告がありました。 その結果では、 1)体外受精では先天異常の増加はなかった。 2)顕微授精での先天異常は、1.57倍だった。   とのことです。 このような報告は珍しいことではありませんが、31万件という膨大な数が信頼性を高めています。 当クリニックでも、「体外受精での先天異常の上昇はない」「顕微授精では、先天奇形や染色体異常の発生は、1.2倍程度に増加する」と説明しています。 今回皆さんに理解して頂きたいことは、以下のようなものです。 1)体外受精では先天異常や染色体異常は増加しない。一般的には、虚弱体質、発達遅延や知能の低下も認めていません。 2)顕微授精では、先天異常はわずかに増加する。ただし、通常でも先天奇形は1%以下、染色体異常は0.5%以下の割合で生まれますが、顕微授精でも先天奇形が1.5%程度、染色体が1%未満の割合で生まれる、ということです。この増加は、顕微授精でないと受精しないカップルにおいては、一般的には許容されると考えられています。したがって、顕微授精が必要な方には、顕微授精は非常に信頼できる技術なのです。 3)ただし、顕微授精で妊娠率は上昇しません。顕微授精はあくまで受精を手助けする技術であり、妊娠率を上げる技術ではないのです。むしろ顕微授精の方が妊娠率は数%低いのです。 4)採卵数が少ないとの理由で、顕微授精をすることで受精率は上昇せず、意義はないことを以前書き込みました。採卵数で顕微授精を選択する意義は明確ではないことを再度ご報告致します。 最近は、顕微授精が必要とも思えない方に、比較的安易に顕微授精が行われているような印象がしばしばあります。 顕微授精で先天異常がおよそ1.5倍となることを、「許容できる」か「リスクの増加」と見るかは、その方の置かれている状況にもよるでしょう。 大切なのは、皆さんご自身が顕微授精の必要性とリスクを理解した上で、「怖がりすぎず」「安易にではなく慎重」に顕微授精をするかどうかを判断してほしいと思います。 パソコンも新しくなり、スピードがアップしました。私の思考スピード・仕事・診察のスピードはどんどんスピードダウンしていますが、皆さんと一緒に勉強していきたいと思います。 今後ともよろしくお願い致します。 高橋ウイメンズクリニック 高橋敬一

2012年5月3日木曜日

チョコレート嚢腫と体外受精妊娠での出産への影響

情報提供です。

Hum. Reprod. (First published online: March 23, 2012)
Pregnancy outcome in women with endometriomas achieving pregnancy through IVF
での論文です。

チョコレート嚢腫があると、妊娠しても流早産やチョコレート嚢腫の破裂などが増えるとする報告もあるようですが、この論文では

体外受精で妊娠した方を対象に、チョコレート嚢腫のあるなしで、出産までに影響があるかを比較しています。
チョコレート嚢腫がある女性と無い女性の生児誕生数はそれぞれ61(78%)と130(83%)だった。
 結論として、IVFで妊娠すれば、流早産が多いとはいえないので、心配しないでよいとの報告でした。私もこのような印象です。

ただし、チョコレート嚢腫があると、卵子の質の低下などがあり、体外受精での妊娠率が低下するとの報告もあります。
体外受精での妊娠率と、妊娠した場合の流早産への影響を、区別して、混同しないように注意が必要です。

2012年4月26日木曜日

体外受精と免疫とイントラリピッド(世界仰天ニュース)

昨日、世界仰天ニュースで、免疫が強すぎて妊娠できない方に、イントラリピッドという高エネルギー輸液をおこなった後に体外受精をして妊娠できた例の紹介がありました。
このような情報は、私も初めてだったので、気になり、少し検索してみました。
夜なので、あまり詳しくは検索しませんでしたが、イントラリピッドと体外受精の報告に関しては、PubMed検索システムでは見当たりませんでした。
テレビも途中からでしたので、経緯がわかりませんが、この情報には慎重な確認が必要だと現在考えています。
まず、「免疫が強すぎて妊娠できない」中身が明確ではありません。何を指標に免疫が強いというのか、が不明瞭です。NK細胞も習慣流産に使用する場合もありますが、NK細胞の測定は、かなりばらつきがあり、習慣流産でもその意義は確立されていません。
体外受精では免疫が強すぎて妊娠できない症例については、聞いたことがないのです。
また、1週間前にイントラリピッドをおこなうことで、簡単に免疫を変えられるというのもまだ聞いたことがありません。
この件は、私も気になりますので、再度十分に情報を集めて皆さんにお知らせ致します。
新しい方法は、いつも最初は過大評価される傾向があります。これについてもすべて解決されるのではなく、効果があるとしても、「この治療法がある一部の方には効果がある」程度である可能性が高いと思います。あまり期待しすぎずに、少し詳しい情報を集めてから考えてみましょう。

2012年4月16日月曜日

日本の生殖医療問題の先駆者(発信者)

本日、朝日新聞社の「アエラ」の現代の肖像欄で、長野のSマタニティークリニック院長のN先生がレポートされていました。N先生には一度お目にかかる機会がありましたが、アエラでは、代理出産、減胎手術など、産婦人科学会と対立しても、目の前にいる患者さんのために、「もがき、苦しみながらも=文中引用」信念を貫いて医療を続けた姿が報告されています。
体外受精も含めて生殖医学に対しては様々な考えがあり、なかなか公表しにくい問題を含みます。S医科大学のI教授(私が研修医の時に指導頂いた方です)が、N先生を「発信する人」と表現していますが、患者さんのために困難な道が予想されるのに問題提起を発信した姿勢には頭が下がります。
70才になられるN先生は、患者さん家族とご一緒の写真では笑顔満面でとてもお若い印象です。非常に高く遠い目標ですが、これも私の目標としたい姿ではあります。
様々な問題がこのレポートにはあげられていますので、皆さんにも是非読んで頂くことをお勧め致します。

2012年4月15日日曜日

AMHが0.1未満でも妊娠された例

アンチミューラリアンホルモン(AMH)は、残存卵子数を示し、卵子の質を示しているのではない、ことは以前にもアップしたと思います。
今回、AMH<0.1、FSH>35であり、卵巣機能がかなり低下して、残存卵子がほとんどない状態でも妊娠された方をご紹介致します。
約40才の方で、AIHを3回受けていました。更にこの方は子宮内膜増殖症で3回の内膜掻爬術を受けていました。しかし、幸いなことに、この方の子宮内膜は薄くはありませんでした。
AMH<0.1であり、体外受精を開始した昨年8月からは、排卵誘発剤を使用してもほとんど卵胞発育もなかったのです。クロミフェン誘発では2回とも採卵できず、3回目の自然周期では1個採卵できるも受精せず。
4回目の自然周期の採卵で1個採取でき、受精/胚移植して妊娠されました。
これほど卵巣機能が低い方には、排卵誘発剤は無効であり、プレマリンなどを使用して自然に卵胞発育を待つ方が良いかもしれません。
今回は、AMH<0.1でも妊娠する可能性を皆さんにお示ししました。ただし、この方は非常にラッキーだったと考えられ、実際にはAMH<0.1での妊娠はかなり難しいのです。皆さんもAMHが低下している方は治療をお急ぎ下さい。

2012年4月13日金曜日

凍結胚の移送による胚移植の時代

他院で体外受精をして1児出産後、千葉県に引っ越してきた方が、当クリニックでの凍結胚移植で妊娠されて、先日卒業されました。  何を皆さんに伝えたいかと言いますと、この方の凍結胚は、神奈川にあるクリニックで凍結保存されていたものでした。ご本人は、凍結胚を移送して当クリニックで保管し、こちらでの胚移植を希望されたのです。

移送の方法は、輸送用の液体窒素タンクに凍結胚をいれて送るのです。
これは、当クリニックでは初めてのことではなく、当クリニックから広島や九州のクリニックに送ったこともあり、そちらでも妊娠しています。技術的には飛行機での輸送も可能で、そのうちに外国との凍結胚の移送もありうるでしょうし、すでに経験のある施設もあるかもしれません。

今や凍結胚は容易に輸送可能であり、もちろん精子も容易に送れます。
ご存知の方も多いと思いますが、日本の胚凍結技術(特にVtrification:ガラス化凍結法)は世界で最も進んでいるのです。未受精の卵子凍結は、まだ臨床的には良い成績ではありませんが、胚凍結は確立された技術と言って良いでしょう。
実際には、これらの胚の移送には、両クリニックの技術が共に信頼おけることが前提であり、現在では、主に知り合いの医師同士での個人的な信頼関係でおこなわれている程度でしょう。

昨日、できるだけ若いときの胚を凍結保存するメリットをお伝えしましたが、転勤が多い方でもこの方法を利用すれば、そのご心配は多少は軽減されるのではないでしょうか。

2012年4月12日木曜日

体外受精における多数採卵のメリットの1例

最近、体外受精において、HMG誘発で多数の卵子を採取するメリットを感じた例がありましたので、皆さんにも参考になると思い、ご紹介致します。
患者さんは40才を超える方です。ご主人の体外受精へのご了承が得られず、ご本人の希望もありAIHを20回以上おこなっていました。今回、やっとご了解が得られ、初めての体外受精をおこなえたのです。幸いに多くの卵子が得られ、最終的に5個の凍結胚も得られました。
この方は、1回目の凍結胚移植で妊娠し卒業されましたが、無事元気なお子さんが誕生されることを心よりお祈り致します。
ところで、この方にはまだあと4個の胚が凍結保存されています。この方は、お子さんが誕生された後にも、二人目を妊娠/出産する可能性が十分残っていると思います。
これが、もし少数の卵子採取で、凍結胚が残っていない場合にはどうなるでしょうか?この方が無事、妊娠、出産したとしても、出産まで1年、授乳していれば、二人目の不妊治療はおよそ2年後になります。この場合、年齢的には二人目の妊娠はかなり困難な状況になってしまうでしょう。
特に、卵巣機能が低下気味であり、年齢が比較的高い方は、できるだけ若いときの卵子を採取して、できるだけ若いときの凍結胚を保存するほうが、二人目のお子さんを得られる可能性はぐっと高くなります。高齢になればなるほど、妊娠率は低下し、流産率は上昇し、染色体異常の率も上昇するのです。
以前は、「体外受精で一人授かれば十分」と考えられてきたのかもしれませんが、二人目、三人目を考えるとき、1人1人採卵・妊娠・出産するよりも、できるだけ若いときの胚を保存する方がメリットがずっと多いのではないか、とこの方の経過を振り返って見て考えました。
多数の採卵がすべてに於いて良いとは考えませんが、少数の卵子採卵がすべてにおいて良いとも限らないでしょう。皆さんの選択肢を広げる参考になれば幸いです。
皆さんご自身は如何お考えでしょうか。

2012年4月11日水曜日

卵子の取材と高橋の万端?な準備

先日、某国営放送のディレクターが取材に当クリニックに来院しました。内容は、「クローズアップ来年?」での不妊症での卵子について、もう少し深く切り込んで続編を作りたいとのことでした。
「取材」の連絡を頂いたときに、全国の視聴者の皆様にくたびれた恥ずかしい姿は見せられないと考えた私は、前日には整髪店に行き、髪から眉毛・鼻毛の手入れにはじまり、雑然とした診察室の机周りの物品の待避(整頓とはとても言えない状態)、何がおきても大丈夫なように下着も新調(何を想定しているのか全く意味不明)し、準備万端で撮影隊を待ったのでした。妻も夫の髪が乱れてもすぐに直せるように、櫛・ジェル、あぶらとり紙、などを携えて、控え室に陣取っておりました。クリニックのスタッフも撮影に備えて残ってくれています。準備はOKです。
さて、某国営放送のディレクターが着いたとの受付からの知らせに、落ち着いてゆっくりと診察室を出てスタッフを出迎えました。胸の中ではあたかもドラマのように大きく手を広げながらの歓迎のポーズで、、、

待合室に行くと、1人の男性が椅子に座っていました。彼こそ天下の某国営放送のディレクターなのです。撮影スタッフはまだ着いていないようで、器材を搬入している最中なのでしょう。私は名刺交換をして、まずはディレクターを診察室に招き入れました。挨拶をして、どのような「取材」かをあらためて伺い、どこからインタビューと撮影を始めれば良いか、頭の中で計算しながら、話の内容を組み立て始めました。撮影は斜め横からが良いだろう、カメラ目線は不自然になってしまうから、カメラは見ないようにしなければ、などと考えながら、、、、、
ディレクターの話はノートを広げてメモをしながらどんどん進む。ビジュアル系はどうなっているのだ!肝心なところが終わってしまうではないか! どうもおかしい!!いっこうに撮影スタッフが入ってくる様子がない。
ディレクターの話が進むにつれて、ハイテンションだった気持ちの高揚が、徐々にではなく、一気に冷めていく自分に気づきながら、話は進んでいくのでした。

その通りです。ディレクターは「取材」の申し入れであり、「撮影」の申し入れではなかったのです。
これに気づいたのは、私だけではありません。スタッフからもこの状況を見て、気怠く「もう帰っていいですか」と言われ、「後ろからの妻からの何とも言えない視線」を感じながら、取材は終了したのでした。
その夜の脱力感は、いかばかりのものか。風呂からもすぐには出られない。その為か?インフルエンザも下火になっているのに、本日は微熱と倦怠感を感じながら、「またやっちまった~」と自己嫌悪の53才なのです。

なお、このストーリーは、事実を元にしたフィクションであり、登場人物は現実とは全く関係ありません。(つまりどうゆうこと?)

2012年4月7日土曜日

昨年の妊娠数

遅くなりましたが、2011年の妊娠数をご報告致します。昨年の妊娠数は768名でした。月およそ50~80名の妊娠数です。
昨年は、やはり東日本大震災と原発事故が大きく影響し、4月の34名、5月の53名が最も少ない月でした。しかしその後は回復し、最多月は7月の81名でした。その後は月60~80名の安定した妊娠数で、スタッフもよく頑張ってくれたと思います。
思い起こせば、震災直後は日を追う毎にその被害の大きさが報道され、また先の見えない原発事故があり、日本はどうなってしまうのか、皆さんも不安な日々であったと思います。
1年経った現在も、決して震災や原発事故の復興が済んでいるとは言えず、むしろ遅々として進まない事態が続いています。
しかし、出産した皆さんからの報告を目にすると、むしろ私が元気づけられました。後ろ向きではなく、今後はできるだけ前向きに進んでいきたいと思います。
今年は、新しいことに挑戦して、何とか妊娠率をあげて、皆さんと喜びを共有したいと思います。
今回は色文字に挑戦しました。そのうち、写真なども挿入したいと思います。

2012年4月4日水曜日

40kg以上の減量で妊娠した例

今夜は台風のような強風が吹いています。皆さん、ご無事でお過ごしでしょうか。
さて、
先日、7回目の採卵(すべて顕微授精)で、ようやく妊娠された方がいらっしゃいました。
アラ4の方ですが、
1回目はHMG注射で排卵誘発するも1個採卵するも、未熟卵のため顕微授精もできず。
2回目はHMG注射で2個採卵するも、正常受精なし。
3回目は5個採卵できるも受精せず。
4回目、5回目は採卵できず。
6回目に8個採卵でき2個移植し妊娠するも7週で流産。
7回目に1個採卵で、顕微授精で受精・胚移植し妊娠し胎児心拍も認めました。
この方は、当初はBMIが30を超える高度肥満で、当初は卵子の状態も不良でしたが、非常に前向きの姿勢の方であり、40kgを超える減量をおこない、それに伴い、卵子の反応と状態が改善したと考えられた方です。
一般的に、体重の増加に伴い、妊娠率は低下し流産率は上昇します。やはり、体重管理の重要性をうかがわせる例でした。
体重も妊娠には重要な因子だと考えられています。この方のようにしっかりとした減量ができれば問題ないのですが、なかなかここまでの減量は難しいでしょう。そのような場合には、糖代謝改善薬のメトホルミンなども積極的に使用しては如何でしょうか。
また、当初は全く受精しなかったり、採卵すらできない経過でしたが、諦めずに努力・減量することで妊娠まで到達した例は、皆さんへの励みにもなると思います。皆さんも参考になさってみて下さい。
今後も、この方のような例をご紹介して参ります。

2012年4月2日月曜日

新年度のご挨拶

新年度が始まりました。
東日本大震災から1年が経ちましたが、昨年度1年間は日本全体は震災後からの復興を期する年だったと思います。私も大きな影響を受けましたが、同時にたくさんの経験をし、学ぶことが多かった年でした。
この3月で、千葉市医師会の医療担当理事を退任致しました。この間は、千葉市医師会員が行政・救急隊・多くの病院とも協力して、千葉市の救急医療を支えていることを実感した2年でした。医師の多くは、千葉市の救急医療を支えるためにがんばっているのです。確かに問題ある場合も認めますが、基本的には信頼できる医師が多いことを皆さんにもご理解頂ければと思います。
さて、私自身は、医師会の理事を退任したので、今後はまた高橋ウイメンズクリニックで、不妊治療に集中して力を注いでいこうと思います。
今後は毎月の妊娠数や様々な経験した例を皆さんに提示して、一緒に考えていきたいと思います。
今後もブログを時々見て下さい。あらためまして、不妊治療をより進めていきたいと思います。一緒にがんばっていきましょう。

2012年3月12日月曜日

卵子が少ないときの顕微授精は有効なのでしょうか?

先週、受精着床学会主催の勉強会がありました。
卵子が1~2個などと少ない場合には、顕微授精(ICSI)を選択している施設は少なくありません。
以前より、私は精子が正常ならば、卵子が少ないとの理由で顕微授精をすることに疑問を持っていました。
しかし今回の講習会で、精子が正常である場合に、卵子が少ない場合の通常の体外受精と顕微授精の受精率に関しての調査結果の報告がありました。その中では、顕微授精と通常の体外受精の受精率は同等で、決して顕微授精の受精率が高くなる様ではないようでした。
また、顕微授精は通常の体外受精より2~5%程度は妊娠率が低下する結果も認めます。したがって、精子が正常の場合、卵子が少ないことで顕微授精をおこなう理由はほとんどないと考えられます。
この調査結果には非常に感動しました。さすがは、Hウイメンズクリニック(関西)のST先生です。
当クリニックの顕微授精の比率は、およそ50~60%です。H]ウイメンズクリニックも、現在、顕微授精の基準を明確に定めたことで、顕微授精の比率はおよそ50%程度に低下したとのことです。
皆さん、顕微授精は受精しにくい状況で受精させる手段であり、妊娠率を上げる手段ではありません。すべて顕微授精にすることが妊娠率を上げる方法、ではないのです。最近は安易に顕微授精を勧める傾向がある様ですが、考え直すべき時の始まりの時期かもしれません。

2012年3月1日木曜日

クルーガーテストの信頼性?

精子の精密な形態検査をクルーガーテストと言います。通常は、クルーガーテストでの精子正常形態率は15%以上だとされることが多いようです。3%未満だと、受精率が低くなるので、顕微授精を考慮する必要があるとされます。
しかし、これは絶対的なもではありません。ある方には、採卵日のクルーガーテストで1.1%でしたので、顕微授精をお勧めしました。しかし、最初なので、ご夫妻は通常の体外受精をご希望し、実際に6個中5個が受精分割し、妊娠に至りました。
精子はかなりばらつくものであり、ましてや採卵日でない時の精子のクルーガーテストを参考に顕微授精をするかどうかを決めることは出来ません。
またクルーガーテストが悪くても、卵子や精子数に余裕があれば、スプリット(体外受精と顕微授精を半々ずつおこなう)などを試しても良いと思います。
精子も卵子も、人間の体もいつも一定ではないのです。検査で決めつけずに可能性をよく考えて対策を進めてみては如何でしょうか。